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ORIGINAL SHORT STORI.. ｜永遠の少女マンガ・ベスト 1 0 0 ブログトップ

黒豚ブログ　[p a l i n d r o m e] [編集]

□ 鯛寿司、玉葱、ツナ、ウド‥‥買う加藤夏希ね、また自炊だ
黒いボンテージ衣裳に白衣を纏った女性がスーパー丸木戸に入って来た。異様な空気を察した主婦たちは一瞬、出入口へ不審な目を向けるが、何事もなかったように再び「半額セール」の品定めに集中する。東京某農大の院生・長谷川遙はスーパーで餌を漁る醜く肥った牝ブタどものデカ尻を鞭打つために来たのではなかった。TVドラマ「もやしもん」（CX）の撮影中の合い間に、夕食の調達に立ち寄っただけだった。半額シールが貼ってある鯛寿司弁当に、玉葱とツナ缶とウドを買う（彼女は自家製サラダを作るつもりなのだ）。レジ係のアルバイト店員（女子高生）は「また今夜も１人寂しく自炊なのか」と籠の中の食品に付いているバーコードを読み取りながら思う。運良く、この光景を目撃した男子高生のグループの１人がケータイでツイートしている‥‥「ボンテージ衣裳に身を包んだ加藤夏希がスーパー丸木戸に来店なう。半額セールの鯛寿司と玉葱とツナとウドを買った。トレードマークの鞭は持っていなかったよ」。彼女と入れ替わりに、今度はメイド風白黒ドレス姿のゴスロリ娘が店内へ入って来た‥‥。

□ 焦らす大好き。唾で初キス悪戯し‥‥
今日はボーイフレンドと初デート。もちろんデートもキスも初めてなのは彼氏の方だけなんだけどさ。私の方はＡもＢも‥‥とっくの昔に体験済み。端から見ても分かるくらいにBFは蚊取り線香（キンチョー）している。つい私の悪いクセ、少女時代からクラス中の男子生徒たちを泣かせて来た悪戯心が目を覚ました。私は激辛もんが大好きで、バッグの中にタバスコの小瓶を常備している。さっき喫茶店の化粧室で、グロスを厚塗りした唇に真っ赤なタバスコを塗って来た。今は公園のベンチで挙動不審な男子の横に並んで坐っている。「キスしろ、キスしろ」（kiss her, kiss her）って、空を舞うカモメが鳴いているように聞えるっていうデート中の少年の強迫観念を歌った名曲があったわね。英国の何て言うバンドの歌だったかしら？‥‥早くキスしなさいよ。初恋の味は酸っぱいレモンなんかじゃなくて、超辛〜〜〜いハバネーロなんだから。私の舌技と唾液のサーヴィス付きなんだから。

□ ウソに泣き今名古屋、小生意気な尼僧
♪雪は降る‥‥あなたは来ない（アダモ）、きっと君は来ない（山下達郎）‥‥。流行歌の中の恋人は彼の許へ来ないことに決まっているらしい。名古屋駅の新幹線ホームで２時間以上も彼女を待ち続けている青年の心情も歌の世界の主人公と同化していた。でも１つだけ彼らと違うところがある。全然ロマンティックじゃないのだ。彼の脳裡にデート・シーンが再生される。３歳も年下のクセに小生意気な小娘だった。デート時刻には平気で１時間は遅れる。遅れた理由も弟が交通事故で病院に担ぎ込まれたとか、車内で痴漢を捕まえて駅員と警官に引き渡したとか、元カレのストーカーの追いかけられて逃げ回っていたとか‥‥逆オレオレ詐欺紛いの言い訳ばかり。今夜は一体どんなウソなのか。まさか大雪で新幹線が止まったなんていう大ウソは吐けないだろう。終電まで待っていたけれど、歌詞の通り彼女は来なかった。青年は最後の力を振り絞って無人のホームに向かって叫ぶ‥‥「小生意気な娘よ、尼寺へ行け！」。

□ 暇人退屈、牢屋彷徨く。異端児麻痺
定時の見回り、モニタ画面で各部屋の様子を24時間監視する‥‥看守の仕事は比較的に暇である。ハンニバル・レクター博士のような凶悪犯が収監されていなければの話ですが‥‥。ある夜、見回りしていた１人の看守が特別室の中で手足を痙攣させて倒れている囚人を発見した。壁のインターフォンで当直の医師を呼ぶ。看守が注意深く鍵を開け、駆けつけた医者が慎重に牢屋の中に入る。事態は一瞬で急変した。一体何が起こったか分からなかった。喉を噛み切られて絶命した医師。慌てて鍵を閉めようとした看守に、豹変した囚人が襲いかかる‥‥。監視カメラで一部始終を見ていた、もう１人の看守が緊急事態発生を刑務所内に報せる非常ベルを押す。完全武装した警備隊が脱獄を図った「異端児」へ向けて麻酔弾を発砲する。あっけなく昏倒する囚人‥‥レクター博士のように「鉄の檻」の中から脱走するのは難しいなぁ。

□ ブラジル、バニーガール。ペルー、カーニバル素面
日本の阿波踊りではセーラームーン、NYのディスコではキャット・ウーマン、ブラジルのカーニバルではバニーガール‥‥お祭りとアニメ（コミック）好きのフランス娘が世界を駈け巡る。彼女の一部始終の言動はブログやツイッターでリアルタイムに更新〜公開され、その奇抜なコスプレ姿はYouTubeから全世界へ向けて発信される。一体どうしたら、そんなハイ・テンション状態を続けられるの？‥‥地元TV局のレポータが彼女に質問している。そりゃ、素面じゃ踊れないわよ。アルコールやマリファナなどの力も借りる時もあるわ‥‥大きな声じゃ言えないけれど。そんな危ないキャラの彼女も、何故か南米ペルーで開催されたカーニバル・パレード中は終始冷静だった。実は彼女には裏の顔、女スパイという冷徹な顔があったのだ！‥‥という、石ノ森先生の女諜報員ミレーヌ・ホフマンみたいな設定なんですが、と自作を売り込む新進マンガ家。副編集長はデスクを叩いて一喝した‥‥ボツ！。

□ 駆けたい秋葉原〜湯島、修羅場は気合いだけか？
毎年恒例のチャリティ48時間TV「愛は地球を救うカネ？」に出演することになった美少女アイドル集団AKV48。彼女たちに与えられた試練は東京メトロの48駅を秋葉原（日比谷線）から数珠つなぎのリレー形式で１駅ずつ走破し、再びスタート地点へ戻って来る「地下駅伝」だった。もちろん地下を走るわけではなく地上を駆けるだけなのだが、地下を走る路線地図通りのルートを通るわけではない。クジ引きで第１走者となった坂野友美は秋葉原〜湯島間（千代田線）を駆け抜ける。１ヵ月前からトレーニングを始めていたけれど、実際のコースを走るのは初めてだった。「東京メトロ駅伝」の当日も猛暑、ヒートアイランド現象で夜になっても気温は下がらなかった。全力で駆けたい気持ちとは裏腹に、次第に躰が重く、脚が動かなくなって来る。東京メトロ各駅を繋ぐ輪は完走すると何かの図形になるらしい。舗道に敷き詰められたタイルの繋ぎ目に爪先を引っかけて転倒。目の前が真っ暗になって立ち上がれない。左膝に激痛が走る。心の中の、もう１人の私が声援を送る‥‥「あたい秋葉原〜湯島、修羅場は気合いだぁ！」

□ 危険芸、コスプレ・セレブ、凄い剣劇
紀伊国屋ホール（東京・新宿）で年に１回だけ上演される文士劇。今年の演目はミステリ仕立ての「くノ一捕物帖」で、迷宮探偵・綾取猫人と黒ネコのコロネも傘貼り浪人とペットの役で出演することになっていた。隅田川で発見された遊女（よしもとはばな）の溺死体を同心（森広嗣）が捜査するというストーリだったが、本番中に驚くべき事態が起こった。遊女が謎の辻斬り（京本夏彦）に襲われるシーン‥‥もがき苦しむ遊女の熱演に満場の拍手喝采、その鬼気迫る演技に共演者からは失笑も漏れるほどだったが、いつまで待っても彼女が再び立ち上がることはなかった。まだ一太刀も浴びせていないのに倒れたまま動かないので、不審に思った辻斬りが近寄って彼女の肩に触れる。その拍子にゴロリと仰向けになった遊女の顔は蒼白で、瞳孔の開いたままだった。次に登場した女忍者・紅（下戸彩）が悲鳴を上げる。それは奇しくも台本通りだったが、恒例の文士劇の舞台は殺人事件の現場と化してしまったのだ。予期せぬ展開に腰を抜かしてしまった同心、「オレは斬っていない！」と台本にない科白を繰り返す辻斬り‥‥。

これは毒殺に違いないと早くも死因に言及する町医者（浦沢直之）、金ピカのデコケータイで救急車を呼ぶくノ一‥‥。場内の観客は、これも「劇中劇」という脚本家の悪趣味な演出だと思って笑っているだけだった。不意に会場が明るくなり、「不虜の事故が起こったために本日の全公演を中止します」という女性アナウンスが流れるまで、この異変に気づいた者は１人もいなかった。さて、ここで劇中では１度も出る幕のなかった傘貼り浪人こと迷宮探偵・綾取猫人と黒ネコのコロネが初登場する。死因は町医者の指摘した通り「毒殺」。恐らく出演直前に摂取した飲食物の中に毒が混入されていたのだろう。この文士劇の出演者の中に殺人犯がいる！‥‥最も怪しい人物は被害者と最後まで楽屋で一緒にいたくノ一５人衆だろう。なぜなら忍者は子供の頃から毎日少しずつ「毒」を服用して、「毒」に対する免疫が出来ているから、もし仮に被害者と同じ毒入りの飲食物を摂っても死ぬことはないのだ。くノ一レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク‥‥「コスプレ戦隊セレブンジャー」に近寄って来たコロネちゃんが、ある女忍者の傍で立ち止まって鳴く。にゃぁあ。

□ 溶けたい日々が「ネコ日和」‥‥ピリピリ呼び子、音が響いたけど
今年（2010）の夏は異常な酷暑で、真夏日〜熱帯夜が連日続いています。高齢者が毎日バタバタと死に、何十年も所在不明の幽霊やミイラが何百人も全国に出没する怖い日本の夏。いつの間にかセミの声も鳴り止むほどの残暑。某美容院のダイちゃん（15歳）も先日亡くなったそうですが、エアコンの効いた涼しい部屋で飼われているペットたちは幸せですね。外ネコやノラネコたちは灼熱の太陽が照りつける昼間は殆ど姿を現わしません。きっと、どこか涼しい場所を見つけて寝ているのでしょう。たまたま、日陰の冷たいコンクリートの上で、グッタリと長く伸びている子ネコを見つけました。まさに「溶けている」という表現が相応しい状態です。トラは椰子の木の回りをグルグル駆け回ってバターと化したけれど、木陰で長く伸びたネコは溶けて何になる？‥‥そう、ネコはチーズ、ネコが溶けて消えた後に笑いだけが残るチェシャ・チーズになります。

あたしの首輪に「鈴」は着いていないけれど、飼主の首からは「笛」（あのサッカーの主審が口に咥えているホイッスルのような）がブラ下がっている。ゴハンの時とか、何か急な用事がある時とか、家に帰る時刻になると、小学校の体育の時間や、校庭で遊んでいる生徒たちに帰宅を促すチャイムのように、その笛を彼女が吹くわけ。あたしは近所のネコ仲間の中でも特別に耳が良いから、遠く離れていても、もし仮に眠っていても、飼主の笛の音は良く聴こえるの。でも35℃以上もある猛暑日は午睡のための「ネコ日和」‥‥夢の中でネコたちと一緒に綺麗な花が咲く野原で遊んでいる。熱くも寒くもない。爽やかな風が吹き抜ける季節。ミツバチやテントウ虫が飛び、パステル・カラーの花々が甘く薫る午後。どこか遠くの方で「ピリピリ」という呼び子が聴こえたような気もしたけれど、あたしは夢中でネコたちと仲良く駆け回っていたわ。

□ 描いたら頭蓋骨８個、いかす裸体画
アルチンボルドのアレゴリカルな肖像画のようにダリも錯視効果を狙った「だまし絵」を数多く描いている。〈スルバランの頭蓋骨〉（1956）は聖堂内が17世紀スペインの巨匠スルバランの髑髏に見えるというトロンプ・ルイユだったし、〈貝殻と頭蓋骨〉（1975）も８個の気味の悪い髑髏が組合わさって若い女性にヌードを形成するという皮肉屋のダリらしい作品になっている。トロンプ・ルイユは「クラインの壷」に同時に異なる２つのイメージを見ることが叶わない。壷か向かい合った２人の横顔か、８つの頭蓋骨か女性のヌードか‥‥２つの目で見ているのに２つの画像を認識出来ないのだ。そもそも３次元世界を２次元に置換する絵画という表現形態そのものの中にトロンプ・ルイユが内包されていると考えることも可能である。たとえば、M・C・エッシャーは狂った遠近法で鑑賞者の眼を欺くけれど、遠近画法そのものが１種の「だまし絵」なのかもしれない。最新流行の飛び出す立体3DTVも現代のトロンプ・ルイユの１つではないかしら？

□ 愛弟子、バルテュス張り切り、蓮茹でる箸で生？
バルテュスは13歳の時にネコの画集を出版したり、59歳で日本人女性と再婚するなど、親日家として知られている。京都で１回だけしか回顧展（1984）を開催しないと宣言する頑固なところもあったが、京都まで観に行けなかった東京人に配慮したのか、後に東京ステーションギャラリーで〈バルテュス展〉（1993）を密かに開いたりした。今日は娘さんの誕生日。バルテュスと愛弟子のミツの２人は日本料理を作って妻と愛娘に御馳走することになった。１品目は酢蓮（酢レンコン）‥‥ハスの皮を剥いて輪切りにする。水で晒したハスを酢と調味料（砂糖・塩・赤唐辛子）を混ぜて煮立てた鍋の中に入れて茹でる。半透明になったハスをバルテュスが箸で取り出して味見をすると、ちょっと硬かった。まだ生煮えなのだろうかと、お互いに顔を見合わせて思案するバルテュスとミツ。いつの間にかキッチンに入って来て、つまみ食いをした妻が微笑む‥‥「ちょうど良い硬さです」。

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