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ORIGINAL SHORT STORIES [c o m i c]



1959年3月17日に創刊した 「少年マガジン」(講談社)は 「少年サンデー」(小学館)と並ぶ日本初の少年週刊誌だったが、読者と共に雑誌も成長して年齢層が高くなり、10年後には「少年マガジン」というよりも「青年マガジン」と呼ぶ方が相応しいマンガ誌となった。かつてのマンガ少年は大学生や成人になってからもマンガから卒業することなく、「少年マガジン」 を読み続けたのだ。2大人気連載マンガ 「巨人の星」(1966-71)と 「あしたのジョー」(1968-73)によって、「少年マガジン」 は150万部突破という第1次黄金期を1970年に築く。「少年マガジン」の青年化は表紙にも象徴的に表われていた。「創刊600号記念超大号」(1970 no.22)から始まった、人気イラストレータ・横尾忠則が構成(デザイン)した表紙シリーズである。「あしたのジョー」 「巨人の星」 「ワル」 「リュウの道」 ‥‥ちばてつや、川崎のぼる、影丸譲也、石森章太郎の原画を構成した4冊(no.22~25)の表紙は1970年当時も、40年後の2010年も斬新で色褪せていない。

力石徹にKO負けした矢吹丈のコマを大胆にカラー化(ジョー=黄、力石=緑、背景=赤)、星飛雄馬が泣きながら走る第1部最終回の扉絵に手書き文字を加えたモノクロ、氷室洋二と新任美人女教師・美杉麗子(?)のラヴ・シーンをリキテンシュタイン風にプローアップ、ミュータント老師がリュウに語る大コマ(1頁)のフキダシの中に特集記事や連載マンガ名を記した表紙は今見返してもカルチャー・ショックを覚える。表紙から情報量(文字数)を減らすことで恐怖を演出したドラキュラ、齋藤五百枝の絵本から採った桃太郎、香朝楼(歌川国政)の浮世絵、東宝特撮映画「決戦! 南海の大怪獣」のポスター、中央に縦書きで「一金九十円也」と書いてあるだけの鉄腕アトム「人工太陽の巻」という5冊(no.34~38)の表紙も見飽きることがない。70年当時は 「巨人の星」 「あしたのジョー」 「リュウの道」 「ワル」 「光る風」 「ナガレ」 などの連載陣の他に、サキの短篇やジョージ・オーウェルの「動物農場」をマンガ化した「サキ短篇集」や「アニマル・ファーム」という企画もあった。

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「短篇オリジナル・シリーズ」(1970. no.39~50)は意欲的な企画だった。上村一夫、川本コオ、真崎・守、旭丘光志、辰巳ヨシヒロ、松本零士という6人のマンガ家が短篇を競作するシリーズ(上村、川本、真崎は各3篇。旭丘、辰巳、松本は各1篇)。この12篇をスクラ ップして1冊に綴じると「少年マガジン」ではなく、「別冊COM」 のように見えてしまう。40年後の「少年マガジン」からは想像出来ない刺戟的な作品が載っている。上村一夫の「密猟記」は「青い性」をテーマにした連作で、「鶏頭の花」 は美しい寡婦と伯父の男女関係を少年・哲夫(12歳)の視点で描いている。海辺でビキニの肩紐を外した母親の肢体にオリーヴ ・オイルを塗る息子。母親が微睡み、伯父が来て、少年は海で泳ぐ。庭で咲いている鶏頭の花、亡父が好きだった赤い花。宮谷一彦の「摩訶曼陀羅華曼珠沙華」ほど直截的ではないし、露骨な裸体も描かれていないけれど、少年のナレーションやネームの少ない詩的な絵の喚起する性的なメタファによって、エロティックな芳香を匂い立たせている。

  • 「完全なる答案用紙」上村 一夫
  • 「ぼく」と松村は無二の親友でライヴァル同士。古文の授業中、窓の外の銀杏の樹を眺めながら「ぼく」は回想する。県下随一の名門高校に入学した2人は、部活(サッカー部とラグビー部)でも学業でも互いに競い合う。松村の部屋の机の上にあった『人体セックス解剖学』。女性の局部を見たことがないコンプレックスを持つ松村の顔が醜く歪む。「ぼく」 は松村の「奇妙な表情」が「人が他人を裏切る時の顔」だと気づく。サッカー部を辞めて学業に専念する松村と成績が下がった「ぼく」。ある雪の降る夜、珍しく松村の家に呼ばれた「ぼく」はガールフレンドを紹介される。しかし、6組の吉沢加代子は「模擬テスト」だった。松村の本命は前の席に坐っている「学校一の美女」山根順子だった。「ぼく」 は山根順子の妊娠という「完全なる答案用紙」を提出する(ラスト数カットにしか登場しない順子さんがエロすぎ!)。日曜日の朝、嫁ぐ姉・洋子と家族・親族の様子を弟・浩の視点で描写する「吉日」も、庭に干したまま取り込み忘れて風に舞っていた女性用ストッキングが雨に濡れてダラリと垂れ下がるラスト・カットが秀逸だった。

  • 「ひき裂かれた海」川本コオ
  • 夏の終わりの人気のない海辺を散歩している少年がカンヴァスに向かって海の絵を描いている少女に出合うことから始まる。少年の姿を見ると少女は不自由な脚を引き摺って逃げ去ってしまう。少女の夢を見た少年は翌朝、学校とは反対の方向へ、少女が消えた林の方へ歩いて行く。彼の目の前でトラックが止まり、若い娘が降り立つ。ヒッチハイクで帰って来たヒッピー風の娘は林の中の洋館に棲む少女の姉だった。娘と結ばれた少年は、少女から男となら誰とでも寝る姉の奔放な性癖を聞かされる。「黄色い殺意」 は両親に捨てられた姉弟の物語。姉の晴子は17歳の時に高校を中退して年齢を偽わり、酒場に勤めている。ヤクザ風の男を連れて姉が家に帰って来る。クルマのドアの下に落ちていた短刀(ドス)を拾う弟の洋治。少年は姉の職業のことで恥ずかしい思いをしていた。暴走族の集団に虐められた弟は姉に刃を向け、姉を襲った暴走族の男を刺し殺す。

  • 「帰郷」川本 コオ
  • 白昼夢のようなシュールな短篇。ある朝、ベッドの上で目覚めた亀井サトシは自分が全く変わってしまったことに気づく。登校する途中でクラス委員の「めがねザル」と出合う。サトシの目の前で男がクルマに撥ねられるけれど、極めて現実感に乏しい。中間テストの成績がトップだったことを確認したサトシ(めがねザルこと伊坂美江子は7位に落ちていた)は学校をサボることにする。歩道橋の上から空を眺めている「めがねザル」に誘われるまま、バスに乗って海岸へ行くが、そこの崖は自殺の名所だった。人類の故郷である宇宙へ還ると言う少女。夜空に突然現われたUFOから放たれた眩い光線に吸い込まるように消えてしまった少女。翌朝の新聞には「高校生飛びおり自殺」の記事と「めがねザル」の顔写真が載っていた。フリーハンドで描かれた川本コオのイラスト風の絵は儚いメルヘンのようにも、存在感の稀薄な少年少女たちの不確かな生の寓話のようにも読める。

  • 「ひびく生命」真崎・守
  • 同誌に掲載された 「錆びついた命」(眼の中を夜がさまよう / 切り裂く!/ ドラキュラの子守唄)と対を成す連作集。「まつり唄絶唱」 は急逝した兄貴の代わりに家業を継ぐことになった弟のサブが米作りに奮闘する。必死の努力にも拘わらず、梅雨の大水や夏の日照りなどでサブの稲は死ぬ。半年がかりで育てた稲を自らの手で収穫前に刈り取るサブ。自暴自棄になったサブは酒を飲み、見守ってくれた少女に迫る。隻腕の父親(クソおやじ)が叩く太鼓の音で我に返ったサブは祭り太鼓で汗を流す。雨の中で着物姿の少女が稲穂を手にして佇む。「薄氷抄」 はトラックに撥ねられた兄を目の前で見ていた幼い少女、交通事故で兄を亡くした妹 ・和子(18歳)とクルマを運転する男との結婚に反対する父親との葛藤を描く。娘のアパートを後にする父。しかし、デートの約束をした恋人は来ない。恋人の田辺が交通事故に遭って病院へ搬送されたことをドア越しに告げられるが、和子はドアを開けることが出来ない。

    亡き恋人の通夜に遅れて来た和子は生前の予定通りに婚約〜結婚することを主張する。「事故のあった数日前に結婚したことにして、結婚届を出したい」 と言う。なぜなら、彼女は恋人の子供を身籠っていたのだから。「あばよ!」 は山奥の僻地へ赴任して来た小学校の代用教員・星野(ボク)とスキンヘッドの医師の顛末記。実は2人とも無免許の教師と医者だった。県の教育委員会のメンバーが視察に来て授業参観する。3年生の担任だった星野は任期満了を以ってクビになり、モグリの医者もカボチャ頭の教育主事にバレてしまう。村を出て行こうとする2人は村の告発者代表に引き止められる。彼の息子キヨジが急性盲腸炎になったのだ。来た時と同じバスに乗って村を後にする2人は追いかけて来る生徒たちの必死さに負けて引き返し、キヨジに応急処置を施す。真崎・守の「ひびく生命」3部作は「死」を乗り越えて「生」を肯定的に描くシリーズになっている。

  • 「飛翔」旭丘 光志
  • マンガ家の 「わたし」(旭丘本人)が自殺をテーマにした作品を描くというドキュメント風の異色作。「青春の苦悩と取り組んだ作品」 という編集部からの依頼の内容が本当ならば、「オリジナル・ショート・ストーリーズ」 に共通する主題なのかもしれない。自殺に関する記録や資料を読み進めるうちに、「作品」 が描けずノイローゼ気味になった「わたし」は旅に出る。そして旅先の犬吠岬で自殺の現場を目撃してしまう。不思議なことに崖から飛び降りた若者は誇らしげに笑みを浮かべていたのだ。血塗れの青年が手に持っていた写真と散乱した遺書。自殺した野尻一は「人間獣」という詩で少年マガジンの「詩とイラスト」へ応募して来た高校生だった。彼の両親やクラスメートに取材する中で、散文詩のような遺書の裏に隠されていた意味が明かされて行く。写真の女性は結婚式を明日に控えて、夏休み前に退職した天真爛漫な若い女教師だった。桜先生の結婚祝いのために泥ダンゴを作っていた野尻一は「失恋自殺」だったのか?‥‥《この1編は、この7ヵ月のわたしの苦闘の記録であり、敗北の報告書であります》。

  • 「風花の挽歌」辰巳 ヨシヒロ
  • ガロ系の劇画は70年当時、既に古めかしかった。谷水岳で遭難した2人、ザイルで宙吊りになったまま4日経った「遺体」の収容は困難を窮めていた。しかし、同僚の中尾は即死だったが、池尻和也は奇蹟的に生きていた。猟銃でザイルを斬ることになった刹那、1人の女性が「やめてっ、和也は生きている!!」と叫ぶ。和也がプレゼント用に買った服を着て遭難現場に駆けつけた恋人の「涼子」だった。17年前、両親に捨てられた和也は家に戻って来て欲しいという母親の懇願を聞き入れず、工場の寮に住んでいる。デートの約束をして、いつもの喫茶店で待ち合わせていた和也の前に涼子は現れなかった。彼女は工場長の道楽息子と一緒にデートしていたのだ。銀座のバーでヤケ酒を飲んだ和也は請求書の金額に驚く。さらに驚いたことに、母親がバーのマダムだった。和也が買った服を着て谷水岳へ行くように涼子を説得する母親。救援隊の中に「涼子」の姿を発見した和也は安心して死ぬ。スカーフをした「涼子」は母親の仮装だった。

  • 「黄色い兎」松本 零士
  • 冴えない浪人生が汚い木造アパートの四畳半に暮らす 「男おいどん」(1971-73)の系譜に繋がる短篇。テスト中のスポーツ機が島の町中へ墜落する正夢を見た勤労予備校生の足立少年は板金工場に遅刻して工場長に叱られ、故障した機械の修理中にヒューズを飛ばして社長に怒られ、同僚からは陰口を叩かれる。そんな足立少年の救いは職場で優しく接してくれるロングヘア&ミニスカ美女の広田さんだった。しかし、彼らには裏の顔があった。社長の姪の広田さんは工場長と不倫関係にあり、社長は20億のヤミ融資を銀行から受け、工員たちは工場の部品や材料を横流ししていたのだ。足立少年に秘密を知られた彼らは態度を豹変させる。広田さんは足立少年のボロ下宿に押しかけ、縦縞模様の古パンツを洗濯して、手料理を作っただけではなく、自ら服を脱ぎ、色仕掛けで「口止め」しようとさえする。「ウサギの耳はナゼ長い?‥‥情報を敵より早くキャッチして」 優位に立つためなのだ。「ウサギ式世渡り術」 というオチである。

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    • 「ORIGINAL SHORT STORIES」全12話の前半(各16頁)は2色カラーなのだ

    • 見出し(作品名)やレイアウト、リンク画像などを一部修整しました(2023・2・21)
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    週刊少年マガジン 1970年 25号

    週刊少年マガジン 1970年 25号

    • 執筆者:ちばてつや / 川崎 のぼる / 石森 章太郎 / 永井 豪 / ジョージ 秋山 / 桑田 次郎 / 旭丘 光志
    • 出版社:講談社
    • 発売日:1970/06/14
    • メディア:雑誌
    • 連載:あしたのジョー / 巨人の星 / リュウの道 / キッカイくん / ほらふきドンドン / ミュータント伝 / Let's Go ケネディ

    「週刊少年マガジン」 50年 漫画表紙コレクション

    「週刊少年マガジン」 50年 漫画表紙コレクション

    • 編集:週刊少年マガジン編集部
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2008/09/18
    • メディア:新書
    • 目次:解説 / 1959~1969 / 表紙トピックス'59~60s / 1970~1979 / 表紙トピックス'70s / 1980~1989 / 表紙トピックス'80s / 1990~1999 / 表紙トピックス'90s / 2000~2008 / 表紙トピックス'00s /「少年マガジン創刊の頃」ちばてつや特別インタヴュー

    密猟記

    密猟記

    • 著者:上村 一夫
    • 出版社:三崎書房
    • 発売日:1971/09/05
    • メディア:単行本
    • 収録作品:鶏頭の花 / 完全なる答案用紙 / 吉日 / 蝶 / 心中高校三年生 / 涙 / 私の愛した夏 / ブルーボーイ・ブルース / 東京暮雪 / 鏡


    錆びついた命

    錆びついた命

    • 著者:真崎・守
    • 出版社:三崎書房
    • 発売日:1971/10/20
    • メディア:単行本
    • 収録作品:眼の中を夜がさまよう / 切り裂く!/ ドラキュラの子守唄 / 運命 / まつり唄絶唱 / 薄氷抄 / あばよ!


    震える夏

    震える夏

    • 著者:川本 コオ
    • 出版社:チクマ秀版社
    • 発売日:2006/11/25
    • メディア: 単行本
    • 収録作品:震える夏 / すっぱい季節 / どろんこマーチ / 引き裂かれた海 / 砂の季節 / 黄色い殺意 / 未鬼子 / きのうの続き / 帰郷 / ふらいんぐ・おふ / 荒野への帰還

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