SSブログ

ブブゼラ・サッカー・ノイズ 1 [s o c c e r]



W杯南アフリカ大会(2010 FIFA Wold Cup South Africa)が始まった。アルゼンチン大会(1978)以来、実に32年振りに南半球で開催されるサッカーの祭典である。大会期間中(6/11~7/12)は冬季‥‥標高1000mを越える高地対策は必要でも、北半球の30℃を越える暑さから選手たちは間逃れることになる。南アフリカ対メキシコの開幕戦をTV観戦した人は、まるで浮塵子の大群のようなチアフォン(細長い喇叭)、ブブゼラ(Vuvuzela)の音にビックリしたかもしれない。ブーブーと鳴り響く野卑な騒音は1年前に同地で開催された「コンフェデ杯」(2009)で体験済みなので、今さら驚かないけれど、全面禁止にならなかった(国歌斉唱時は自粛)のはFIFAの見識を示すものだと思う。試合中、絶え間なしに吹き続けて酸欠にならないかと心配になるほどの大音量は、コンフェデ杯の時よりも2割増しという感じである。最初は試合観戦に集中出来なくて耳障りだったブブゼラ・ノイズに慣れたのか、それとも「ウンカの羽音」に催眠作用があるのか?‥‥なぜか、急に激しい睡魔に襲われてしまうのだ。

日韓共同開催(2002)は審判の誤審騒動に揺れたけれど、主審のジャッジはインカムによる副審との無線交信で精度が格段にアップしている。オフサイド判定は概ね精確だし、ハンド反則にも厳しい。イエローやレッド・カードの決断も迷いがないし、ロスタイムも時間通り厳格に試合終了の笛を吹く。本大会に問題があるとすれば、W杯公式仕様の軽くて飛びすぎるクセ玉のニュー・ボールだろう。FIFAはゴール増の派手なゲームを狙ったのかもしれないが、直接ゴールに入らないFK、GKが前にハンブルしたり、後ろに逸らすシュート‥‥FKの華麗なゴールが決まらず、GKにとって屈辱的な失点は競技場のサポータもTV観戦者たちの心も南アフリカの澄み切った青空のようにはスッキリ、スカッと晴れない。FKやCK、クロスボールが長く伸びて大きく外れてしまうのは、必ずしも標高の高さの影響だけではないだろう。狙ったところに飛ばないボールは難ありの「不良品」だと思う。現役最高のGKとも称されるカシージャス(スペイン)も大会前から、軌道が揺れるW杯の公式ボールを批判していた。

本大会前の日本代表の試合内容の悪さ(勝ち負けは兎も角)から、このままでは第1次リーグの突破どころか、1勝さえ難しいのではないかと憂いていた。W杯の特番TVの中で、インタヴュワーの質問に淀みなく答えていたヨハン・クライフ氏も、日本代表監督の目標が「ベスト4」だと知らされると一瞬言葉を失った。岡田監督は一向に調子が上がらないMF中村俊輔をレギュラーから外して、本田圭佑をFWに起用するという荒療治を施す。速いパス回しで中盤を支配して両サイドから崩すという従来の戦術を捨て、最前線で躰を張る本田にパスを送る実戦的なシステムに変更したのだ。カメルーン戦の先制点は得意のドリブルで切り返して左足で上げたMF松井大輔のクロスと、相手DFの後方へ回り込んだ本田のコンビで獲ったゴールである。本田の右膝に当たったボールが左足の前に零れたという幸運もあった。主力選手が先発から外れたカメルーンの攻撃は中盤を組み立てられずに終始生彩を欠いた。もしカメルーンがデンマーク戦のように、MFアレクサンドル・ソングやDFジェレミなどを起用した攻撃的な布陣で挑んだら、試合の結果は分からなかった。

NHKサッカー解説者などが事あるごとに発言するアフリカ人の「身体能力の高さ」‥‥には異和感を拭えない。たとえばMBLやNBAの実況中継でも、黒人選手たちの「身体能力の高さ」が云々されるのだろうか。手足の長さ(リーチ)に加えて、ジャンプ力、スピードなどに秀でている黒人選手は少なくないけれど、人種的な体格や体力差だけでアドヴァンテージがあるかような言述には「逆差別」的なニュアンスが感じられなくもない。DFやGK、ターゲットとなるFWは長身選手の方が有利かもしれない。しかし、アフリカ人というだけで「身体能力の高さ」を強調する解説者は、「黒人はリズム感が良い」‥‥と言う音楽評論家と同じレヴェルである。黒人にもリズム感の悪い人はいるし、黄色人種にもリズム感に優れるミュージシャンがいないわけではない。ステロタイプ的な物言いは「身長」や「俊足」ぐらいに留めて欲しい。ボール・コントロール(トラップ)やドリブルの巧さ、スルー・パスやFKの精度も「人種」などではなく、各プレイヤー個人の資質や能力、環境やトレーニング方法に起因すべきはないかしら。

                    *

開幕戦の南アフリカは開催国を担った緊張からか動きが硬かった。スコアレスの均衡が破られたのは後半10分、MFチャバララが左からドリブルしてゴール右上隅に突き刺したシュートだった。しかし同34分、左からのクロス・ボールをMFマルケスに至近距離から決められて同点。対メキシコ戦を引き分けた(1 ─ 1)。バルセロナのDFマルケスがMFで先発していたとは!‥‥髪を短くカットしたマルケス(31歳)は若々しかった。ウルグアイ対フランス(0 ─ 0)もスコアレス・ドローで、グループAは早くも混戦模様となる。ボールがゴールに入らないフランスの得点欠乏症は深刻な事態だ。後半29分にFWアンリを投入し、同36分に途中出場のMFロデイロ(ウルグアイ)が2枚目のイエロー・カードで退場になってからも数的優位を生かせず、フランスのシュート(18本!)がウルグアイのゴールを揺らすことはなかった。

グループBの韓国はギリシアに快勝した(2 ─ 0)。前半7分、CKをDFイ・ジョンスがボレー・シュート、後半7分にもマンUで活躍するパク・チソンが相手DFの横パスをインターセプトして高速ドリブル〜DFパパドクロスのタックルも躱して、左からゴール右隅に流し込む。鉄壁の守備で欧州選手権(2004)を制したギリシアを文字通り一蹴した。アルゼンチン対ナイジェリア(1 ─ 0)は前半6分、MFヴェロンの右CKをDFエインセがダイヴィング・ヘッドで先制。場外ではマラドーラ監督の言動、一挙手一投足ばかりが良くも悪くも目立ってしまうアルゼンチンだが、グラウンド内では世界最優秀選手(2009)に輝いたFWメッシが主役である。得点こそ奪えなかったけれど、メッシの高速ドリブルの切れ味、ゴール枠内へ飛ぶシュートの精確さは際立っていた。

グループCのイングランド対アメリカ(1 ─ 1)は前半4分MFジェラードの技ありアウトサイド・シュートで試合開始早々に先制するが、同40分にMFデンプシーのミドル・シュートをGKグリーンが後逸して惜しくも引き分けた。FWルーニーやMFランパード、ジェラード、DFテリー、アシュリー・コールなどスター選手を擁するイングランドだが、MFベッカムやDFリオ・ファーディナンドが怪我で離脱するなど、決して万全な状態ではない。しかし、ルー・リードみたいなカペッロ監督の顔は怖いなあ‥‥テリー(「スター・トレック」のアンドロイド・データ少佐を想わせる)の不倫問題が発覚すると主将の座を剥奪、左サイドをアメリカに破られるとMFミルナーを前半31分に交替するなど、家父長制の権化みたいな厳格なタイプですね。スロヴェニア対アルジェリア(1 ─ 0)も互角の闘いだったが、後半28分、途中出場のFWゲザルが2回目の警告で退場になった後、33分にMFコレンのミドル・シュートをGKシャウシが後逸して失点した。イングランドとアルジェリアのGK2人の痛恨のミスは「不運」というだけでは済まされないでしょう。

グループDのセルビア対ガーナ(0 ─ 1)の均衡は後半9分に崩れた。DFルコヴィッチが2枚目のイエロー・カードで退場になると、同39分に途中出場のDFクズマノヴィッチがペナルティ内でハンド反則‥‥FWジャンにPKを決められる。セルビアは守備陣が自滅して貴重な勝点1を失った。しかし、そのセルビアが次のドイツ戦に勝利(1 ─ 0)してしまうのだからサッカーという球技は分からない。前半37分にFWクローゼが2回目の警告で早々に退場すると、その直後の38分にセルビアはMFクラシッチの右からのセンターリングを長身FWジギッチがヘッドで落とし、MFヨヴァノヴィッチがボレー・シュートを決める。1人少なくなったドイツは後半に猛反撃に出たけれど、同15分に得たポドロスキーのPKをGKストイコヴィッチに止められるなど、運もなかった。

                    *

グループEの日本対オランダ(0 ─ 1)は前半をスコアレスのまま凌いだ日本が後半8分に痛恨の失点。DF闘莉王のクリアがFWファン・ペルシーに渡って、パスを受けたMFスナイデルが強烈なシュート‥‥ボールはGK川島の手を弾いてゴール内に吸い込まれた。日本は後半19分にMF中村俊輔、23分にFW玉田と岡崎の2人を投入するものの、残念ながらスルーパスは機能せず、シュートも不発に終わった。FWロッベンを温存したオランダとの力の差はスコア以上に大きい。カメルーン対デンマーク戦(1 ─ 2)は前半10分、FWエトーのシュートで先制するものの、同33分に長身FWベントナー、後半16分にMFロメダールにゴールを奪われて逆転を喫した。この結果、カメルーンの第1次リーグ敗退とオランダの決勝トーナメント進出が決まり、日本はデンマーク戦(6/25)に勝つか、引き分けでも得失点差で第1次リーグ突破というアドヴァンテージを得た。

グループFのスロヴァキア対パラグアイ(0 ─ 2)は前半27分MFベラ、後半41分MFリベロスのゴールを決めたパラグアイの快勝だった。対照的に前回優勝国のイタリアは苦戦している。初戦のパラグアイに引き分け(1 ─ 1)、格下のニュージーランド戦(1 ─ 1)も前半7分MFエリオットの左サイドからのFKを、DFカンナヴァーロがクリアミスしてFWスメルツに押し込まれた。イタリアの猛攻を同29分のFWイアクインタのPK1点で凌いだニュージーランドの健闘を讃えるべきなのか、それとも勝てないイタリアの不甲斐なさを責めるべきなのか?‥‥難しいところだ。GKブッフォンやMFピルロの欠場が影響しているのだろうか。後半から交代出場したポニーテールのMFカモラネージュのシュートは惜しかった。イングランドやフランス、スペインなど欧州の強豪国も軒並み苦戦を強いられているのは「悪夢」を見ているような気がする。

グループGのコートジヴォワール対ポルトガル(0 ─ 0)はFWクリスティアーノ・ロナウドと後半21分に途中出場したFWドログバの2人が共に不発でスコアレス・ドローとなった。ブラジル対コートジヴォワール(3 ─ 1)は面白かった。前半25分、MFカカの針の穴を通すような絶妙なパスを受けたFWルイス・ファビアーノが右からGKバリの頭上を抜く強烈なシュートを放つ。後半5分にはGKジュリオ・セザールからのゴールキック〜浮き玉を巧みに操って(2度のハンド!)、左足でゴールに蹴り入れた。同17分にはカカのマイナス・パスをMFエラーノが合わせて楽勝ムード‥‥。しかし、本大会直前の調整試合で右腕を骨折して出場を危ぶまれたドログバが同34分にヘディングで一矢を報いると、コートジヴォワール選手のラフ・プレイで両チームが険悪なムードに‥‥。終了間際の小競り合いのドサクサで続けて2回の警告を受けたカカが笑いながら退場すると、ドゥンガ監督は現役時代を彷佛させる形相で怒りを露わにした。次のポルトガル戦(6/25)にカカは出場停止になってしまったが、ブラジルは勝点6で決勝トーナメントへの進出を決めている。

グループHのホンジュラス対チリ(0 ─ 1)は前半34分、DFイスラの右サイドからのクロスをFWボセジュールがゴール。攻撃で圧倒したチリは自国開催大会(1962)から実に48年振りの歴史的勝利を収めた。スペイン対スイス(0 ─ 1)は優勝候補最有力視されていた無敵艦隊スペインが敗れる大番狂わせとなった。後半7分、GKベナリオのゴールキックが伸びて直接スペインのゴール前へ‥‥DFピケ、プジョル、GKカシージャスがクリア出来ずに縺れ合った混戦の中から零れ玉をMFフェルナンデスに決められた。欧州王者のスペインはバルセロナの選手が中心で、素速いパス回しとドリブルで相手チームの守備を撹乱・翻弄するバルサ・スタイルのサッカーをする。メッシ(アルゼンチン)の代わりにフェルナンド・トーレスが入る布陣だが、トーレス(4月に右膝の手術をした)は後半16分からの途中出場で、残念ながら見せ場は少なかった。

                    *
                    *





M'Bemba

M'Bemba

  • Artist: Salif Keita
  • Label: Universal I.S.
  • Date: 2005/11/01
  • Media: Audio CD
  • Songs: Bobo / Laban / Calculer / Dery / Ladji / Kamoukie / Yambo / Tu Vas Me Manquer / M'Bemba / Moriba

タグ:SOCCER world cup
コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0