ネコ・ログ #15 [c a t a l o g]
127 | 128 | 129 |
130 | 131 | 132 |
133 | 134 | 135 |
京極 夏彦 『豆腐小僧双六道中ふりだし』
♯127│アヤ│ノラ猫? ── おヒゲが長〜いのね
少し離れたところから子ネコたちを見守っているアヤはシンコの母ネコなのだろう。好奇心いっぱいの子供たちは外界の事物に並々ならぬ興味を示す。特に動くものに対しては‥‥。人間の母親との違いは慎み深く振るまっているママも実は遊びたい盛りだということ。最近は幼い子供を夜遅くまで引き連れて遊び回っているヤンママも少なくないらしいので、ヒトもネコも余り変わらないのかもしれませんが。子ネコたちもカラスなどの外敵に対抗出来るようになると行動範囲も広くなって、1匹でテリトリー内を探険する。車道を挟んだS公園で寝そべったり、植え込みの中に隠れたり、地上に降りたハトやスズメを狙ったり、人気のない神社の境内を散策したり‥‥。子ネコは萩尾望都が描く縞トラの「レオくん」のように小学校に入学することもないし、母ネコも新妻ヤマトちゃん(英語塾やピアノ教室へ通っている)のママのように時間に追われて忙しそうでもない。
♯128│ユイ│飼い猫 ── 三毛の毛並みは柔らか〜い
三毛猫の毛並みはフワフワで柔らかい。三毛といっても、ユイちゃんの黒と茶の部分は両耳と額の両脇だけで、肢体の殆どは真綿のように真っ白い。グリーン系の目とピンク色の鼻がチャームポイントで、真正面から見ると「おかめ顔」のガッキー(新垣結衣)に似ていなくもない。性格は大人しく奥ゆかしく、三毛ネコ特有の気品に溢れている。この界隈には5〜6匹の飼い猫が棲息しているけれど、それぞれ違うタイプ(色・柄)で、祖父母・親子・兄弟・姉妹の大家族というよりも、血縁関係にない独身者たちがネコ・アパートで気ままな共同生活をしているイメージに近い。老ネコのオキが管理人で、ユイやレナやクーたちが同居人。しかも皆さん、美男美女の器量良し。何度か通っている間に徐々に馴れて来ましたが、まだ写真を1枚も撮らせてもらえない用心深いネコもいます。
♯129│リュウ│飼い猫 ── さようならリュウちゃん
ノラ猫の場合、人懐っこいネコほど短命なのではないか。警戒心がない分だけ危険な人間に悪戯されたり虐められたりする可能性が高いし、不用意に人の後を尾いて行って(車道に出て)クルマに轢かれたりする。S緑地公園の日溜まりで気持ち良さそうに寝転んでいたリュウも2009年の春に交通事故で死んでしまった。近所の人が亡骸を公園に埋めてくれたという。2〜3年前に撮った写真と較べると分かるように、右耳の先端が不自然に切れているのは去勢・不妊手術済みのマークらしい。ノラ猫を不必要に増やさないための処置だというけれど、動物の躰の一部を損傷させるのは美的見地からも愛護精神にも反しているような気がするし(T区では耳にピアスをしていた)、それ以前に交通事故で死んでしまったら手術を施す意味がないではないか!‥‥。本当にネコのことを思っているのならば、交通事故死を減らす対策を講じるべきだろう。「ロボット刑事」に登場するベテラン刑事が「機械嫌い」になったのも無理もない。リュウの毛並みを撫でた時の感触が今も掌に残っている。合掌。
♯130│ゴン│飼い猫 ── クロマキー撮影中?
始終動き回っているネコほど撮り難い被写体はない。しかも気紛れでフラッシュの光が大嫌い。気分を損ねるとネコ専用の出入口に入って2度と出て来ない‥‥。それでもフミャ〜フミャ〜と鳴きながら近寄って来るゴンちゃんは可愛い(ダイエットしたのか、一回り小さくなった)。一体何に使ったのか、青い塗料を塗ったベニヤ板が道端に立て掛けてある。映画やTVの合成画像のクロマキー風にブルーの背景で撮れないかと思ってネバッてみましたが、なかなか難しいですね。ネコに演技させるどころか、所定の位置に静止してもらうことさえ適わない。映画「金田一耕助シリーズ」の中でネコが絶妙なタイミングで奥の部屋に入って行くカットがあったなぁ。英語で「落ち着きのない人」のことを「scatterbrain」(脳味噌がバラバラに飛び散っているイメージ)というけれど、落ち着きのないネコにこそ相応しい言葉(綴りの中に「cat」が入っている!)ではないかしら。
♯131│マグ│飼い猫 ── 久々のファニー・フェイスちゃん
プリクラ全盛期の「ヘン顔」ではなく、いわゆる「変顔」、ファニー・フェイスなネコちゃん。白い建物、クルマ、自転車、アパートの外階段など‥‥背景がゴチャゴチャしていますが、ネコは風光明媚な絶景の前で撮る記念写真のように都合良くポーズを取ってくれない。しかし、偶然に予期せぬものが映り込んだりするから面白い。右奥に映っているバイクなのかクルマなのか良く分からない正体不明なものを覆っている白っぽいカヴァが、ルネ・マグリットの〈恋人たち〉(1928)──顔を布で隠した男性のフォルムを想わせるのだ。〈恋人たち〉はキスしている男女の顔をカーキ色の布で覆うことで妖しいエロスを滲み出しているが、マグの背後の白いオブジェはクリストの「梱包アート」のように見えなくもない。自転車のカゴとマグちゃんの首輪のカラー・コーディネート(ピンク色)も洒落ている。
♯132│マウ│ノラ猫 ── ネコぢから、ネコ目ぢから
「ネコぢから」‥‥キャット・パワー(cat power)とは周囲の明るさによって睛の大きさが変化する「ネコ目ぢから」のことかもしれない。見つめられると惹き込まれそうになる魔力を秘めているミステリアスな眼差し。ファム・ファタルではなく、宿命的なキャット。耽美系絵画や少女マンガとネコは相性が良い(クリムトも山岸凉子もネコが大好き)。ちょっとピントが甘いけれど、マウちゃんの「目ぢから」を捉えている写真だと思う。人はキャット・パワーに癒されて救われる。もし地球上にネコという小動物(ペット)が存在しなかったら、と考えるとゾッとする。ネコのいない世界は味気ないものになっていただろう。ノラ猫や地域ネコに毎日ゴハンを運び、掃除さえして行く女性たちの姿はネコ神に仕える古代の女官のようにも見えて来る。「子ネコぢから」‥‥プッシー・パワー(pussy power)だと別の意味にもなるので注意してね。
♯133│フータ│ノラ猫 ── 忍法「まぼろしニャンコ」
ソラリゼーション機能を使わずに撮ったら、単なるピンボケ写真に終わったかもしれない。「まぼろしニャンコ」とは一体どんなネコ忍法なのかと問われても困るけれど。『忍者月影抄』(1962)の中に風太郎先生お気に入りの忍法が出て来る。甲賀御土居下組・壇宗綱の「夢若衆」と伊賀鍔隠れ衆・樺伯典の「鏡地獄」‥‥夢の中の殺人と合せ鏡の迷宮。夢の中に出て来る謎の男に毎夜殺され続ける、あるいは鏡の中の反世界に永遠に閉じ込められる。「夢」と「鏡」の対決は「忍法」というよりはアリス・リデルの冒険のようなファンタジーに近い。長い夢から醒め、異界から現実世界へ還って来るのがファンタジーの基本構造なのだが、風太郎忍法帖の2人の忍者は2度と戻って来ない。左右を反転した裏焼き写真が「鏡像世界」ならば、ソラリ写真は夢の中の「幻影」ということになるだろうか。
♯134│レナ│飼い猫 ── 地球の鼓動が聴こえるよ
躰に纏わりついて来るスリスリ猫や動き回っている落ち着きのないネコは、彼らが疲れて休息するのを待って撮るしかない。猛暑の夏にはグッタリと長く伸びていたネコたちも、日陰のコンクリートや石畳に躰をピッタリと着けて横たわっている。今年(2009)の夏は涼しくて、毛皮を着た小動物たちには過ごし易かったのかもしれない。ユイが白いドレスを着た三毛ならば、レナは黒を基調としたシックな三毛ネコ。2匹の2ショット写真を撮るのは難しいなぁ。「地面に顔を接していると、地球の鼓動が聴こえるよ」「そう?‥‥耳障りな地響き(クルマやバイクの騒音や足音)しかしないけど」「ユイちゃんはロマンティストじゃないのね。都電の線路の上を歩いていると肉球からビンビン振動が伝わって来て、すっごく気持ちが良いんだから」「それって、激ヤバくない?‥‥レナちゃん」
♯135│マミー│飼い猫 ── 私の隠れ家
塀に空いている四角い窓。ここが「私の隠れ家」なの。不審者が近づいて来たら、身を翻して奥へ逃げるだけ。ちょっと興味があるので、「眺めのいい部屋」から愚かな人間たちを観察しているわけ。向こうも同じように私を見つめているわね。左右の目の色の違いが珍しいのかしら?‥‥私の娘ハートも同じ金眼銀目のオッド・アイだったけど、左右の色が逆なのよ。今年生まれた初孫は両目がブルーだったわ。私もオバアちゃんになっちゃったなぁ。若い頃はモテモテの美貌ギャルだったのに。私がネコ銀座を歩いていると、擦れ違った雄ネコたちは1匹残らず振り返ったという「伝説」があるくらい。自慢の白い毛並みがウス汚れているって?‥‥シャンプーすれば見違えるような綺麗な純白ヘアになるのに惜しいわねって良く言われるけど、私は風呂とキモメン(森永卓郎や亀井静香)が大っ嫌いなの!‥‥もし私を無理矢理捕まえて躰を洗おうとしようものなら、ビリ、ベリ、バリ、ボリ‥‥毎日研いでいる鋭い爪を立てて、思いっきり引っ掻いてやるんだから。覚悟しててちょうだい。
*
各記事のトップを飾ってくれた猫ちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第15集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下にあるナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、#ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ130匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。「戸を開けるネコはいても、閉めるネコはいない」という『豆腐小僧双六道中ふりだし』(2003)の中の一節には目からウロコでした。自分で冷蔵庫を開けるロシアン・ブルーのような賢いネコでも、後ろ脚でドアを閉めたりはしないでしょう。ところが島根県にいる賢い黒ネコは自分で窓を開けて外に出た後で、律儀にも窓を閉めるという。飼主がネコに教え込んだそうですが、夜空に2つの月が浮かぶ、現実と良く似た世界の25年前のニュースなので全く信用出来ません。
*
*
cat's log 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / sknynx / 232
- 著者:京極 夏彦
- 出版社:講談社
- 発売日:2003/11/30
- メディア:単行本
- 目次:豆腐小僧、情事を目撃する / 豆腐小僧、鳴屋と遭遇する / 豆腐小僧、臨終に立ち会う / 豆腐小僧、夜明けを迎える / 豆腐小僧、禅問答する / 豆腐小僧、勧誘される / 豆腐小僧、江戸を出る / 豆腐小僧、小僧に会う / 豆腐小...
2009-10-21 00:10
コメント(2)
トラックバック(0)
蛇尾です。
「戸を開けるネコはいても、閉めるネコはいない」の件は、落語のマクラによく使われます。しかし、言い得て妙です。
我が家の最長老「白身(シロミ)猫」は、来年で18歳になります。しかし、糖尿病になってしまい、現在、朝夕にインスリン注射をしています。かわいそうです。
やはり飼い猫は家族が面倒を看るからでしょうが、長生きしますね。
我妻はさしずめ、この白身猫に仕える「女官」であります。しかし、この女官、ときどき猫が玄関でオシッコをすると怒りまくっています。まだまだ修行が足りません。(5匹猫がいると犯人探しは大変です)
猫がいる生活は確かに楽しいのですが、旅行の時なんかは、チョット困ってしまいます。なんせ、人間は妻と二人なもんですから。
by 蛇尾 (2009-10-23 11:19)
蛇尾さん、コメントありがとう。
落語のマクラだったのか!
そう言われれば、「豆腐小僧」の語り口は落語そのものですね^^
看板猫のラッキー(推定18歳)は腎臓の機能が低下していると
理髪店の女主人が言っていました。
持病が悪化しての病死ならば覚悟も出来ているけれど、
突然の交通事故死はショックです。
「楽になりたいのは飼主の方じゃないか」と、町田康も書いているように、
意志表示が出来ない動物の「安楽死」には反対です。
白身猫さんも長生きすると妖怪「猫又」になるかもしれませんよ^^;
ネコって、清潔なところじゃないと用を足さないのよね。
黒猫がン十万もする羽毛布団の上でオシッコしちゃった時は大変でした^^
「自分で窓を閉める黒猫」のエピソードは『1Q84』の中に出て来ます。
でも、このニュースは眉唾だなぁ。
2つの月がある「青豆」の章は天吾が書いている長編小説ではないかしら?
「必殺仕掛人」の梅安みたいな青豆の設定も非現実的だし‥‥^^
by sknys (2009-10-23 23:27)