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コンフェデ杯の夜(2 0 0 9) [s o c c e r]



  • 私が「サッカーのミーハー・ファン」と、ウェブ上で評されているのを読むと、むろん私としてはこれを、あのズケズケ物を言う知性と自信の、怖いものなしの小説家が、ことサッカーに関してはミーハーぶりを発揮するのが、また、いい、という、賞讃あるいは感嘆の言葉として受け取る以外にないのだが、普通、男のサッカー・ファン(浦和レッズのサポーターだったりするので、たまたま出会ってしまったりすると、こちらとしてはサッカーの話題を避けることにしている)が「ミーハー」という言葉を使う時は「オフサイドの意味さえ知らないのに」、4年前ベッカム様と騒いだ女ども、という意味であることに注意を喚起しておきたいのだが、いや待てよ、サッカー・ファンの友人にお土産にいただいた'06ー'07シーズンのアーセナルの新しいデザインのジャージィ(背番号14、アンリ)を着て、今この原稿を書いていることを考えれば、ミーハーではなく、やはりイカレてる(頭が)というべきではないだろうか。
    金井 美恵子 「ガットゥーゾだったら顔面にあたっていたね」


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    6大陸の王者とW杯優勝国、開催国の8チームが対戦するコンフェデレーションズ・カップ(FIFA Confederations Cup 2009)が南アフリカ共和国で行なわれた。コンフェデ杯は前ドイツ大会からW杯の前哨戦という位置づけになって、4年に1度、W杯の前年に開催されることになった。参加8ヵ国がA・B、2グループに分かれてリーグ戦を行ない、上位各2チームが準決勝へ進出する方式は、32ヵ国が出場するW杯の1/4の規模。全16試合、2週間(6/14~28)に渡るプレ大会である。コンフェデ杯を毎回愉しみにしていたのに、南アフリカ大会は日本が不出場ということもあってか、地上波TVでの放映は準決勝と決勝戦を含む5試合のみ、全試合の中継は有料の衛星チャンネルだけということになってしまった。日本代表のアジア最終予選突破〜W杯出場で浮かれるドメスティックなメディアの影に隠れて、コンフェデ杯大会の印象は薄い。もしスペインやブラジルで日本と同じように地上波中継されなかったら、きっと暴動が起こるでしょう。

    4年前のドイツ大会(2005)の開幕戦はポプラの白い綿毛が緑の芝生の上を舞い踊る幻想的な雰囲気に包まれていたけれど、南アフリカ大会はブブゼラ(Vuvuzela)というチアフォン(長細い喇叭)の音が喧しい。ブーブーブーと鳴り響く野卑なノイズによる応援を許したのはFIFAの度量の広さを示してもいるが、W杯本大会では少なくとも南アフリカ・チーム(バファーナ)の試合だけに限定して欲しい。世界各国から来たサポータたちの個性豊かな応援がブブゼラの騒音に掻き消されてしまう可能性が高いから。TVの前で観戦しているだけでも耳障りで試合に集中するのが難しいくらいなのだから、グラウンド内は凄まじい音量が響いているのだろう。南アフリカのサポータは赤、緑、黄色などカラフルなプラスチック製の長ラッパを90分間も吹き捲くっていても全く疲れる素振りがない。試合前の国歌斉唱の時は流石に鳴り止んで、スタジアムが静寂に包まれていましたが。

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    ○ スペイン 2 ─ 0 南アフリカ(6/20 ブルームフォンテーン)
    ブブゼラの応援を味方にした南アフリカはスペインに善戦して、前半を無失点(0 ─ 0)で折り返す。後半6分に得たPKをGKクーンに阻止された(DFプジョルのリフレクションも入らなかった!)FWビジャが、その僅か30秒後(同7分)に名誉挽回の左足反転シュートを決めてスペインが均衡を破る。こういう劇的なことが起こるからサッカーの試合は一瞬たりとも目が離せない。同15分にはグラウンダーのFKを長身FWフェルナンド・ジョレンテが足で2点目を決めてスペインが勝利を収めた。予選リーグA組を3連勝で1位通過したスペインは2008年のEURO優勝国。しかも国際Aマッチ32戦無敗、15連勝という世界記録を更新した。まさに「無敵艦隊」の名に相応しい快進撃である。A組イラクとニュージーランドの試合が引き分けた(0 ─ 0)ために、南アフリカも決勝トーナメントへ進出した。

    ● イタリア 0 ─ 3 ブラジル(6/21 プレトリア)
    W杯ドイツ大会(2005)の優勝国イタリアが予選リーグで敗退したショッキングな試合。マルチェロ・リッピ監督はW杯優勝メンバー中心のチームでコンフェデ杯に挑んだが、お家芸の鉄壁の守備が脆くも崩壊してしまう。前半37分にDFマイコンのシュートをFWルイス・ファビアーノがゴール、同43分にもFWロビーニョ〜MFカカの速攻からルイス・ファビアーノが2点目を決める。さらに同45分にはロビーニョのセンタリングをDFアンドレア・ドッセーナがオウンゴール(OG)してしまうオマケまで付く始末。前半の3失点で勝負はついた。イタリアにとって痛かったのはブラジルから1点が奪えなかったこと。同日ルステンブルグで行なわれたエジプト対アメリカ戦(0 ─ 3)でアメリカが勝ったために、エジプト、アメリカ、イタリアの3チームが1勝2敗(勝点3)で並び、アメリカがエジプトに得失点差で、イタリアに総得点で上回って辛くも決勝トーナメント進出を決めたのだから。守備陣崩壊と決定力不足はイタリアにとって深刻ではないかしら。

    ● スペイン 0 ─ 2 アメリカ(6/25 ブルームフォンテーン)
    準決勝の1試合目はブラジルと共に優勝候補と目されていたスペインが僅差で勝ち上がったアメリカに敗れる大波乱があった。高速パスを繋ぐ華麗なスペイン・サッカーが、パスコースを切り、シュートコースを身を挺してブロックする不粋な戦術に破れ去ったのだ。実に29本のシュートを放ちながら一瞬の隙を衝かれて、前半27分にFWアルティドール、後半29分にMFデンプシーに2失点。少ないチャンスを確実に得点に結び付けるアメリカの勝負強さが目立ったが、運も味方にしていた。もしEURO王者のスペイン代表とCL優勝チームのバルセロナが対戦したら、果してどちらか勝つだろうかと空想する。同じようなプレイ・スタイルであってもバルセロナの方が洗練・熟練されているし、FWフェルナンド・トーレスが所属する英リヴァプールとスペインのサッカーは明らかに異なっている。無敵艦隊の沈没!‥‥スペインにとってはシャビと共に中盤の核となるMFイニエスタの大会不参加が痛かった。

    ○ ブラジル 1 ─ 0 南アフリカ(6/26 ヨハネスブルグ)
    準決勝でも開催国の南アフリカはブブゼラの応援に鼓舞されてブラジル相手に一歩も怯むことなく健闘した。前日に優勝候補のスペインが敗れる大番狂わせがあったので、もしかするとブラジルも‥‥という期待がエリスパークにも漲っていたのかもしれない。両チームとも無得点のまま延長戦に入るかと思われた後半43分、6分前にDFアンドレ・サントスと交替して途中出場したDFダニエウ・アウヴェスのFKが試合を決めた。獲物を狙う眼光鋭いアウヴェスが蹴ったボールはゴール右上のサイドネットに吸い込まれて行く‥‥。そのまま試合はタイムアップ。ブラジルが僅差で決勝進出を決めた瞬間だった。ドゥンガ監督の采配が的中したわけだが、かつての「闘将」は冷静沈着な指揮官に豹変していた。グラウンドに立ち、左手を頬に当てて静かに戦況を見守るドゥンガの姿には笑っちゃいました。

    ● アメリカ 2 ─ 3 ブラジル(6/28 ヨハネスブルグ)
    決勝戦の前に、6年前コンフェデ杯の試合中に急死したFWマルクヴィヴィアン・フォエ選手の追悼セレモニーが行なわれた。遺児のスコット君が淡々とメッセージを読み上げるFIFAの演出だったが、背後にいたアメリカの選手が少年の肩に、そっと手を置いたシーンが忘れられない。アメリカとブラジルの2度目の試合は前半10分に右サイドからDFスペクターのクロスをデンプシーに、同27分に鮮やかなカウンターからFWドノバンに豪快に決められて、ブラジルが2失点する波乱の展開。反撃の突破口を開いたのは後半1分、ルイス・ファビアーノの左足反転シュート、同29分には再びファビアーノが頭で決めて同点。39分には右CKからDFルシオのヘッドで逆転した。コンフェデ杯南アフリカ大会はブラジルが2大会連続、3度目の最多優勝という結果に終わった。最優秀選手にカカ、得点王にルイス・ファビアーノ(5得点)、最優秀ゴールキーパーにティム・ハワード(米)が選ばれた。6月というW杯大会の日程が変更出来ないのなら、今後も冬期の南半球で開催するというのも一案ではないでしょうか。

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    全16試合中5試合だけという消化不良でストレスの溜まるTV観戦記になってしまいました。それでも、イタリアの予選リーグ敗退、開催国・南アフリカの健闘、アメリカの勝負強さ、優勝したブラジルの底力、いかに精確なトラップとパスがサッカーにおいて重要であるかを再認識させたスペインの光と影‥‥Aマッチとは名ばかりの「国際親善試合」では決して見られない真剣勝負を堪能出来た。コンフェデ杯は翌年に開催されるW杯のプレ大会、2010年南アフリカ大会を盛り上げるための前哨戦という位置づけなのに、なぜか日本国内のメディアの反応は総じて冷たかった。一体どのような放映権契約になっているのか知らないけれど、「コンフェデ杯の夜」に英プレミア・リーグやW杯アジア最終予選を呑気に再放送しているNHK(BS)に、コンフェデ杯の全試合を録画放映する気は全くないらしい。それとも2010年のW杯本大会も「みなさまのNHK」は中継しないつもりなのかな。

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    2009 FIFA Confederations Cup

    2009 FIFA Confederations Cup

    • Host Country: South Africa
    • Dates: 14 June - 28 June
    • Teams: South Africa / Italy / United States / Brazil /Iraq / Egypt / Spain / New Zealand
    • Venue(s): Johannesburg / Pretoria / Bloemfontein / Rustenburg


    目白雑録 3

    目白雑録 3

    • 著者:金井 美恵子
    • 出版社:朝日新聞出版
    • 発売日:2009/04/30
    • メディア:単行本
    • 目次:3度目のはじまり / オーラの正体 /「ガットゥーゾだったら顔面にあたっていたね」/ 菊池寛の呪縛 / 時代錯誤について / 死後の世界 / 不快な12月、あるいは物忘れ / フットボール日記 / 感冒日記 / ペギーの「まやかしの世界」、その他 / 感情教育 / 休載の記 / トラーの最後の晩餐、禁煙その他 / 咳々日記 / のろのろ日記 / 繰り言(老いの)日記 / ...

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    コメント 2

    tumuzi

    ジャンボー、sknysさん。

    世界があんな凄い大会をやっていることにしばらく気がついて無くて自分で驚きました。マスコミって何?

    アメリカとアフリカ諸国の成長は目を見張るものがありますねー。世界中のサッカーのパススピードが猛烈に速くなって新次元に突入している感じもしました。

    ちょっと前、「南アフリカ開催で出来なかったらドイツか日本でやる可能性も」などと誰かに言われて「ならばぜひ日本で!」などと思いましたけれども、アフリカにこそサッカーが必要だと最近では思っています。なんとしても成功させて欲しいものです。
    by tumuzi (2009-07-14 08:05) 

    sknys

    マンボー、tumuziさん、コメントありがとう。
    地上波では準決と決勝だけ放映されるという前情報でしたが、
    プラス2試合視れました。

    その1つがイタリア対ブラジル戦。
    W杯優勝国イタリアのサッカーは時代遅れで通用しないということですね。
    南アフリカもアメリカも粘り強かった。

    南アフリカ大会は南半球で開催される「冬季W杯」という利点もあります。
    南ア・チームには1次リーグを突破して、ベスト4まで行って欲しいな。
    W杯で「世界を驚かす」のは日本ではなく、アフリカかもしれません^^;

    NHKのスポーツ・ニュースでは、南アフリカに視察旅行に行った岡田監督が
    「ついでにコンフェデ杯も見て来た」というニュアンスでした。
    日本がスペイン〜バルセロナのようなサッカーを目指すのなら、
    パスの速度とトラップの精度が上がらないと‥‥。
    by sknys (2009-07-14 23:57) 

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