SSブログ

乳出しモンチ(1 9 9 6) [r e w i n d]



  • ◎ THE LAND OF THE GIANT DWARFS(Bang! 1995)X-Legged Sally
  • X脚のサリー(XLS)の5thアルバム。変拍拍子をビシバシ決めるベルギー発のアヴァン・ロックだが、インスト主体のジャズ〜プログレ風の超絶サウンドに猥雑野卑なヴォイスが絡むと、等身大の変態マーチング・バンド風になるところが面白い。小人や大男など異形キャラが出演するフリークス・サーカスの専属楽団みたいに。ジャズ、ファンク、プログレ、パンク、ロック‥‥などの食材を巨大ミキサー撹乱して澄んだ上澄みだけを掬い取る、あるいは蒸留して不純物を取り除く洗練さを敢えて嫌っているようにさえ思える。The Exがアングラ劇団の講演に乱入したかのような〈R.I.P.〉、捩れた万華鏡を覗いている気分に襲われる〈Owl Harry〉、ヘヴィー・ファンクの〈Hair〉など‥‥ビーフハート大将を想わせる乱調の美、アクロバティックな変態性が美しい。XLSは1997年に惜しくも解散したけれど、同じく雑食性のワールド・ミュージック集団Think Of Oneのメンバーとしてトランペット奏者のBart Marisが参加しているのは興味深い。XLSというグループ名はロックンロールを代表する名曲〈のっぽのサリー〉(Long Tall Sally)のモジリでしょうか?

  • ◎ LIBERA(MCA)Antonella Ruggiero
  • 伊Matia Bazarの2代目歌姫の初ソロ・アルバム。ヴィデオグラフを使ったスリーヴが想像力を掻き立てる。Antonella Ruggieroの魅力は青空の彼方へ溶け込んで行く強力な巻き舌ヴォイス(最近の写真を見ると激肥りで別人のようですが)。彼女の表現力を持ってすれば空を彩る凡庸な雲や霧は文字通り雲散霧消されてしまうだろう。タブラやシタール、フルートなど、エクゾチズム溢れる刺戟的なサウンドが疾風や雷鳴や豪雨のようにドラマティックに演出する。トリップホップ風に始まって遊園地の喧騒(子供たちの声)で終わる〈Fare, Fare〉。レゲエ調の〈In The Name Of Love〉。アラビック風の〈La Fabbrica〉‥‥。中近東色が濃厚な〈Il Viaggio〉はイタリア語で歌われているのが不思議なくらい。アルバム・タイトルの「Libera」は後に彼女のレーベル名にもなる。2007年に全アルバムがデジパック仕様でリマスター・リイシューされました。《Souvenir D'Italie》(Libera 2007)と趣向の異なる2枚のライヴ・アルバムを纏めた徳用スペシャル・パッケージ盤(3CD)も出ています。

  • ◎ EMPEROR TOMATO KETCHUP(Electra)Stereolab
  • John McEntire(Tortoise)がメンバーと共同プロデュースして、Sean O'Hagan(High Llamas)がストリングス・アレンジャー兼プレイヤーとして参加した《トマト・ケチャップ皇帝》(寺山修司の映画タイトルから採った!)はポスト・ロックとマジカル・ポップスの夢に満ち溢れている。Lætitia Sadierの投げ遺り風な低温ヴォイスとMary Hansenの甘ったるいコーラスとの鮮やかな対比。ブヒョブヒョなアナログ・シンセと硬質で軽やかなヴィブラフォンの競演。ブリッジ部分の反復パートが異常に長い〈Cybele's Reverie〉、5拍子の〈Percolator〉、主旋律と副旋律、ヴォーカルとコーラスが有機的に絡み合った〈Spark Plug〉、7拍子の〈Motoroller Scalatron〉、ソフト・ロックのBreadと共演したかのような〈Slow Fast Hazel〉など‥‥ポピュラーと実験性の2重螺旋が織りなす愉しい音楽にリスナーたちは浮游感と幸福感に包まれる。ポピュラー音楽において、歌の上手い下手は余り関係ないかもしれないと想わせちゃうところがスゴイなぁ。

  • ◎ VIVA MAMANERA(Vox Pop)Mau Mau
  • マウマウ団の3rdアルバムは移民検査局があった〈Ellis Lsland〉で幕が開く。前作《Bass Paradis》(1994)で、メンバーの1人がケニアへ行った時、現地人に追い払われてしまう顛末をアイロニカルに語った彼らが「移民の国」に辿り着くのは当然の帰結かもしれない。1曲目が「移民の歌」ならば、その次は鉛の飛行船ネタというわけなのか〈Zeppelindia〉(Zeppelin+India)はインド〜中近東かぶれのLed Zeppelinを揶揄している(「Killing Jorocco」という曲でなくて良かったね)。Soul II Soulを超ヘヴィにして「人力ジャングル」を加えた〈Soli Noi / Tropical Jungle〉。ハチロク・ポリリズムの〈Mezzaluna〉など‥‥ラテン系の軽快な曲も少なくないけれど、ボトムの強化やノイズ・ギターの跳梁もあって意外とロックっぽく聴こえる。3rdアルバムにして初めてマウマウ団の顔写真をインナー ・スリーブで確認出来た。1996年現在の構成員はカメルーン人1名(Tate Nsongan)を含む6人組で、中心メンバーは殆どの楽曲を共作しているヴォーカル&ギターのLuca Morino(蝋人形みたいで気色悪い!)とアコーディオン&キーボードのFabio Baroveroの2人である。ラテンの血が騒ぎますね。

  • ◎ ALFAGAMABETIZADO(Delabel)Carlinhos Brown
  • ドレッド・ヘア、網の目状の白いゴーグル、裃のような衣裳を素肌に纏って、組み合わせた掌を見つめる宇宙人? ‥‥アルバム・カヴァの妖しい姿からも、Carlinhos Brownには天衣無縫の自由人というイメージがある。打楽器集団Timbaladaのリーダーだけあって、パーカッシヴで乗りの良いビートがアルバムを躍動感溢れるものにしているが、Lenineみたいにカッコ良い〈Cumplicidade De Armario〉や雨音の調べが優しく愛撫する〈Argila〉など、ファンタスティックな曲に惹かれる。〈Quixbeira〉や〈Seo Ze〉などはカリブ海の音楽を想わせる。ブラジル未来人のデビュー・アルバムはWally BadarouとArto Lindsayの共同プロデュース。Caetano Veloso、Gilberto Gil、Maria Bethania、Gal Costa、Marisa Monteがゲスト参加していることだけでも、彼が重要人物であることを証明している。ユーロ盤とブラジル盤は同内容ながらジャケ違いなので要注意。

  • ◎ I HOPE IT LANDS(Communion)Thinking Fellows Union Local 282
  • TFUL 282は「この世」以外の世界‥‥「死」や「夢」に魅入られている。〈Elgin Miller〉は偶然知ることになった知人(E・M)のミステリアスな「死」をめぐる歌。母親からの手紙の中の「Elgin Millerが死んだ」「毒入りレモネードを呷って死んだ」という記述に触発されて「私」の記憶が甦る。E・Mの運転するクルマが走って行くと話す窓際にいる父親の声、「私」は通夜の光景や荼毘に臥される遺骸、遺族たちの様子を想像したり、E・Mの彷徨える「霊魂」についても想いを巡らす。毒入りジュースを飲むに至ったE・Mの思考自体が怖しいと人々は感じるだろう。彼は消滅してしまったと考える人や、地獄の堕ちれば良いのにと願う人もいるかもしれない。止めどなく流れ出る「私」の意識は弔問客からE・M本人へと移行し、《E・Mのミステリ──自殺だったのか?‥‥もし、そうだとしても私は驚かない。8月の息吹き、湿っぽく重ったるい、老躯(aging frame)、レモネード──その響きは快い》と結ぶ。

    B級ホラー的状況が逆に笑える〈Brains〉は「シュールな夢」を想わせる歌。雨の夜、「ボク」は路上に散らばっている人間の脳味噌を発見する‥‥《躰のない脳味噌だけが路上にバラバラに散らばっていた》。すると突然スーツ姿の、面妖なニクソン顔の男が窓から跳び込んで来て「ボク」の頭を異状がないかどうかチェックした。天国の検査所で人々の脳味噌を調べている。人間の頭の中がカラッポになってしまう超常現象を象徴する恐怖のイメージの1つとして想起されるのが「岸辺のない海」(seas without shores)という詩的メタファである。しかし「ボク」は道路に散らばっている脳味噌なんか少しも怖くないし、「岸辺のない海」(the shoreless seas)をこの目で見てみたいくらいだと言い放つ。「ボク」の意見には賛同しかねるが、「岸辺のない海」という表現には驚いた。なぜなら、アルバム・リリースの1年以上前に、《その閉じた球体は「岸辺のない海」のような超自然的な、この世のものとは思えない異界から降り注ぐ一雫のメッセージ(凸面鏡の歪んだ像を映す)のようにも思えて来る》と書いていたからだ。

  • ◎ DUSK AT CUBIST CASTLE(Flydaddy)The Olivia Tremor Control
  • 何の予備知識、前情報もないまま、たまたま輸入CDショップで試聴して気に入ったオリヴィア・トレマー・コントロール(OTC)のデビュー・アルバム。副題に 「Music From The Unrealized Film Script」 とあるように、「架空の映画(台本)のための音楽」 という良くあるコンセプトだが、あらゆる意味で謎が多い。OTCの4人にElephant 6 Orchestraという5人組がサポート、全27曲(74分)にアンビエントCD(68分)がオマケに付いていたのだから。後期BeatlesのGeorge Harrisonみたいなサイケデリック・サウンドとUSインディーズのローファイ&ノイズの混合といえば分かりやすいか。4トラック録音(1993-96)を8トラック化した音質は決して良いとはいえないけれど、玉石混淆の「宝石箱」ようにダイヤや貴石が詰まっている。その後、OTCに続いてThe Apples In StereoやOf Montreal、Elf Power、Neutral Milk Hotelなど、いわゆるエレファント6系の輪が広がって行く。

  • ◎ LAMB(Fontana)Lamb
  • 90年代後半に出現したトリップホップ系のユニットの多くは1stアルバムが最高で、2nd以降は何故か急激に色褪せて輝きを失ってしまう。Andy BarlowとLouise Rhodesの男女デュオLambも、その例外に漏れず同名タイトルのデビュー・アルバムが素晴しい。トリップホ ップ〜ドラムンベースの見本のようなアブストラクト・サウンド。人工的にシンコペートするリズム。ダ ークな空間に浮游する内省的な女性ヴォイス。7拍子の〈Lusty〉 、6拍子の〈Gold〉、Bjorkっぽいヴォイスが伸びやかな〈Cotton Wool〉、ポーランドの作曲家ヘンリク・グレツキ(Henryk Gorecki)の曲にインスパイアされたという〈Gorecki〉。全10曲+シークレット・トラック1曲だが、5分以上の楽曲が大半を占めるので聴き応えがある。Fila Brazilliaがリミックスした〈Cotton Wool〉を愛聴していると、踊れないオリジナル曲は懲りすぎではないかという気もして来るけれど。

  • ◎ NOUBA(Barclay)Kent
  • Mitchell Froom & Tchad BlakeのコンビがプロデュースしたKent Cokenstockのアルバム。Ron SexsmithやSuzanne Vegaなど、この2人が手掛けるとアーティストの個性とは関係なく、キーマ・カレー専門店のメニューみたいな同じテイスト風味になってしまう傾向が否めない。しかし、Kentがフランス人というところに意外性がある。アラビックなストリングスが舞い踊る〈A Quoi Revons-nous?〉、ハチロク・ポリリズムの〈Regarde-moi, Soleil〉、Kentの2重唱が切ない〈Au Nom De Ma Liberte〉、アラブ・ロック野郎のRachid Tahaがヴォーカル参加した〈La Haine Est La〉、Suzanne Vegaのコーラスが麗しい〈Ainsi Va L'Amour〉‥‥。1994年のライヴ1曲(アラブ色が濃厚!)を含む全12曲。全編に渡って流れる哀愁を帯びたアコーディオンの音色・旋律が効果的に響く。

  • ◎ BARULHINHO BOM(EMI)Marisa Monte
  • スタジオ録音7曲+ライヴ11曲という変則2枚組CD(英語タイトルの《A Great Noise》は1CD)。カルロス・ゼフィロ(Carlos Zefiro)のポルノ・コミックを模した「乳出しモンチ」ジャケット&猥褻なインナー・スリーヴが話題になったが、ブラジル盤はピンク色の半透明ビニール(ビニCD?)に包まれていたのでエロ度が高い。Arto Lindsayとの共同プロデュースで、スタジオ盤にはMelvin GibbsやBernie Worrellなど、NYの腕利きミュージシャンが参加している。Carlinhos Brownが手掛けた3曲は彼のデビュー・アルバムと親和性が高い。Gilberto Gilのカヴァ〈Cerebro Eletronico〉(1969)ではArto Lindsayのノンチューニング・ノイズ・ギターが炸裂する(これがないと画竜点睛を欠く)。ラストに収録されている1分足らずの〈Blanco〉は、Marisa Monteがオクタヴィオ・パス(Octavio Paz)の詩に音楽を付けたもの。リオ(ブラジル)とNYを横断する先進的なサウンドなだけに、20分足らずという収録時間の短さだけが惜しまれる。

    1995年レシフェと96年リオのライヴ盤は十字型の切り抜きジャケの《Mais》(1991)から3曲、色名タイトルの《Verde Anil Amarelo Cor De Rosa E Carvao》(1996)から2曲、デビュー・アルバム《MM》(1989)から1曲の他、Caetano Velosoのカヴァなどを収録。しかし、何と言っても最大の驚きはGeorge Harrisonの〈Give Me Love (Give Me Peace On Earth)〉(1973)のカヴァしていることでしょう。Spinettaもライヴ盤で〈Don't Bother Me〉(1963)を演奏しているので、南米では意外と人気があるのかもしれない。オリジナル曲では〈Beija Eu〉や〈Bem Leve〉など、Arnaldo Antunesとの共作曲が際立つ。ライヴ盤はサンバ曲〈O Xote Das Meninas〉で華やかに終わる。この後、Marisa Monteはオーソドックスで伝統的なものへと回帰して行く。Carlinhos BrownにArnaldo Antunesを加えた仲良しトリオの《Tribalistas》(2002)では、アクースティック・ポップス路線を継承してしている。

                       *
    • ◎ 輸入盤のリリース〜入手順

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • お笑芸人や男性タレントが可愛く女装コスプレして美を競う「アニコレ」というTVを視ていたら、ファッション・ショーのBGMでStereolabの〈Percolator〉が流れた。〈Spark Plug〉の「Auto Production Organisation」というコーラス部分は「男立ちション、しょうがないでしょ」に聞えるんですが‥‥空耳かしらん?^^;

    • 《Barulhinho Bom》のカヴァ・イラストについてはWikipedia「マリーザ・モンチ」を参照しました。「乳出しモンチ」のオリジナル・イラスト「A Ceia de Natal」がCarlos Zefiroのサイト(18禁?)にあります^^;

    • TFUL282の《I HOPE IT LANDS》は〈岸辺のない海〉からの再録です^^
                       *





    Barulhinho Bom

    Barulhinho Bom

    • Artist: Marisa Monte
    • Label: EMI
    • Date: 1996/11/04
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Arrepio / Magamalabares / Chuva No Brejo / Cérebro Electrônico / Tempos Modernos / Maraçá / Blanco // Panis et Circenses / De Noite Na Cama / Beija Eu / Give Me Love (Give Me Peace On Earth) / Ainda Lembro / A Menina Dança / Dança Da Solidão / Ao Me...


    The Land of the Giant DwarfsLiberaEmperor Tomato Ketchup

    Viva MamaneraAlfagamabetizadoI Hope It Lands

    Music from the Unrealized Film Script, Dusk at Cubist CastleLambNouba

    コメント(0)  トラックバック(0) 

    コメント 0

    コメントを書く

    お名前:
    URL:
    コメント:
    画像認証:
    下の画像に表示されている文字を入力してください。

    トラックバック 0