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ネコ・ログ #12 [c a t a l o g]

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  • 埃からまもるのに髪にスカーフをして、テレーズ嬢はそこいらを熱心に掃除した。呼鈴の音がするとふき掃除の手を休め、はたきを小脇に、訪問客を暖かく出迎えようと走り、扉だけはちゃんと閉めてくれるように懇願しながら「あれはまだ慣れてませんから」彼女は言った。「食べ物も何も欲しがらなくて、もし逃げ出しでもしたら‥‥」 誇らしげに、一等暗い部屋の片隅に大きな赫毛の猫がいるのを指し、それは牛の肝と砂糖入りの牛乳の皿に挟まれて不安げに蹲り、毛を逆立てて、耳を倒し、威嚇するのにフーッと声を発したりして、見知らぬ者どもや、見慣れぬ家、この引っ越し騒ぎのすべてに憤懣と憎悪でやるかたない様子。/ そこで人々はパリのことや、住み込んでいた家庭のこと、なぜ暇を出されたのかとか、そこから持ち帰ったもののことなどを訊くと、彼女はしきりに猫の方を振り返って、「それは良いご主人様方でした。かけがえのないものをわたしにくださって。ジャンお坊っちゃまがお母さまよりもわたしよりも愛しておられた猫です。ムッシュー・ムトン ── アンゴラ種ですよ」
    A・P・ド・マンディアルグ 『猫のムトンさま』


  • ♯100│パル│ノラ猫 ── 雷と豪雨の夏も終わりかにゃぁ
    山手線内回りのI袋駅手前、進行方向に向かって左側の線路沿いに伸びる細長い公園。運が良ければ車窓から、公園に棲むネコたちの姿を目撃出来るかもしれない。2008年の夏は稲光と豪雨で終わった。まるで熱帯地方のような連日の夕立ち(スコール)が地球温暖化の影響なのかどうかなんていうことをネコたちは考えたりしない。空から降ってくる雨水は熱せられた躰を冷却してくれるけれど、あのピカッと光って空を切り裂く稲妻とゴロゴロ‥‥ドッカーンという轟音はネコ族にとって永遠の謎だろう。駅前公園のノラ猫たちは恵まれている。毎日ゴハンの世話をする人もいるし、水天宮神社には水飲み場もある。線路沿いに張り巡らされた金網を擦り抜ければ、不埒な人の手の届かない安全地帯に逃げられる。丸々と肥っているパルは撫でられても全く意に介さない。

    ♯101│バニー│ノラ猫 ── 101番目のネコポーズ
    太極拳道場の玄関前で寝そべっているバニーは「番ネコ」としては全く頼りにならない。近づいて手を伸ばすと、ビックリして逃げてしまうのだから。飼い猫にしては人馴れしていない。躰に触れられるのが嫌いな性癖なのかもしれない。それとも中国拳法を習っている子供たちに怖れをなしているのだろうか。この付近にはサビ君トミーちゃんも暮らしているけれど、お互いのテリトリーを守って棲み分けしているらしい。道場前から近くの空き地へ移動。そこで暫くジッと静止していたかと思うと、徐ろに歩き出して道端の草を食む。道場前へ戻って来て勝手にゴロニャン。そして、何事もなかったように敷地内の塀の向こう側に消え去る‥‥バニーさんの行動パターンは予測出来ません。

    ♯102│エリカ│ノラ猫 ── K場公園の白い天使?
    東京都現代美術館(MOT)の帰り道。K場公園に立ち寄ったら、公園のベンチの上に真っ白いネコが寝そべっていた。地上に舞い降りた白い天使?‥‥気高く高貴なオーラを放つ美白ネコ。近くに1匹、白黒ブチ柄のネコもいる。2匹は仲良しカップルなのかと思って和んでいたら、散歩に来ていた地元のオバさんたちが美白ネコが白黒ネコを追い回して虐めていると言う。人間社会のように集団で余って集って1人を虐めることはないでしょうが、ネコ社会の相関関係も良く分からないなぁ。美白ネコは気があるのか、それとも本当に嫌っているのか、白黒ネコを追い回す。恐らく自分の容姿がネコ並外れて美しいという自覚がないのだろう。彼女が原宿を闊歩する美少女だったら、黙っていても男たちが寄って来るのにね。美白猫のエリカ様が実は「女装のおかま」だったという可能性も否定出来ないけれど。

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    ネコ写真を撮っているデジカメ(Cyber-shot)には「ピクチャーエフェクト」という4種類の特殊効果(ソラリ / モノトーン / セピア / ネガアート)を写真に反映出来る機能が付いている。今まで1度も使ったことがなかったけれど、〈X線の眼を持つ女〉の中で紹介した《Raio X》(EMI 1997)のアルバム・ジャケットがソラリゼーション(マン・レイへのオマージュ)だったので、試しに「ソラリ」で撮ってみたら思わぬ特殊効果が!‥‥一番の美点は失敗がないことでしょうか(レイとイチゴの写真がソラリです)。リアルタイムで刻々と変化して行くソラリ画像をモニタ画面で見ているだけでも面白い。画像編集ソフトを使えばソラリ風にも加工出来るらしいが、iPhoto 2には「白黒」への変換機能しか装備されてない。褪色した古い写真のような色合いの「セピア」や、ポジとネガを反転させたネガフィルム風の「ネガアート」も試してみようかな?

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    ♯103│レイ│飼い猫 ── ソラリゼーションしちゃった!
    M治通りから横道に入ったところにある小料理屋Mの店前に可愛い仔ネコが数匹いた。母親らしき成猫が子供たちを見守っている。ある日、ネコ写真を撮っていたら「出来れば貰って欲しいけれど、持って行けないわよね」と女主人に言われた。子ネコと呼ぶには少し大きくなりすぎて自己防衛本能に目覚めているので、そのまま抱いて帰るのは難しいという意味なのだった。不用意に手を差し伸べると引っ掻かれる。人に馴れないのはノラ猫だから‥‥と男性客に話していたけれど、元ノラでも人に馴れた*美粧院のポーや敵意剥き出しで威嚇するM家のキムのような飼い猫もいるからね。自転車に乗った若い女性が立ち止まってI袋駅前公園のネコたちを眺めている。私も仔猫を飼ってみたいと話す。小動物用のキャリング・ケースを持参しないと、レイを連れて帰るのは難しいかもしれない。

    ♯104│ソラン│飼い猫 ── ヒョウタンツギにみたいだって?
    黒ネコのソランとは仲良くなって、後を尾ついて来るようにまでになりました。それでも細い路地に犬を散歩させている人や郵便配達のバイクなどが近づいて来ると、ビックリして家屋と家屋の間の狭いキャットウォークに逃げ込んでしまいます。落ち着きのない気まぐれ屋さん、写真に撮り難い(なかなか静止してくれない!)ネコでしたが、最近はカメラを向けると駆け寄って来て前脚で戯れついたり、鼻先を押し付けて来たり、ゴロニャンしたり、気が向くとポーズを取ってくれたりもします。通りがかった近所のネコ好きオバさんが呼んでも完全無視。でも、ソランの目線の高さに合わせて屈んで手招きすると、遠くから足早に近寄って来る。「まぁ、羨ましい。ネコちゃんに愛されて!」と羨まれてしまいました。まるで手塚キャラの「ヒョウタンツギ」みたい。「愛苦しい」という言葉は、この写真の中のネコ(ソラン)のためにある?

    ♯105│リン│地域猫 ── ロンパリ・ライダーが行く
    放置されたオートバイの上に乗って興味深そうに見つめるネコ。座席部分のクッション素材(ウレタンの詰め物)が露わになっているのは、ネコの爪研ぎ用に酷使された結果でしょうか。ネコ・ライダーはオートバイに乗って爪を研ぐ。白と薄茶色の良く似た兄弟姉妹ネコが4匹いる。目の色は見目麗しいライトブルー‥‥その中の1匹がオッドアイのハート君です(この中ではハートが一番警戒心が緩い)。いつも数匹で屯していて、ゴハンは欲しい、でも極度に人を警戒している痩せっぽちの容姿が不憫で哀れだったけれど、いつの間にか皆さん立派な成猫になりましたね(号泣)。商店会通りの地域猫として暮らして行くのには色々と苦難があるでしょうが、どうか逞しく生きて下さい。陰ながら応援しています。

    ♯106│マー│飼い猫 ── ボクにも翼があったらにゃぁ
    C公園近くの団地で飼われていたマー君は失踪中。女飼主が孫の家へ連れて行ったのが災いしたらしい。孫の喜ぶ顔が見たいという想いは分からなくもないけれど、ネコにとっては一大事。突然見知らぬ土地へ連行されてパニックを起こしたのだろう。部屋から外へ跳び出して行ったきり戻って来ないという。恐らく元の家に帰ろうとして必死に帰り道を捜しているに違いない。涼しい目をした美形ネコなので、どこかの家で大切に飼われていると良いのですが。真っ白な伝書鳩が一羽ベランダに居着いたことがあった。足首に巻いてある認証リングから飼主が判明したが、引き取ることはなかった。飼主の許へ戻って来ない時点で伝書鳩としては失格なのだろう。海に向かって飛ばせとアドヴァイスされてもね。遠く離れたA鳥山公園に連れて行って放したら、アッという間に飛んで帰って来た。捨てに行ったつもりなのに感激して、いつもより多く好物の「麻の実」をあげちゃいました。

    ♯107│イチゴ│飼い猫 ── ニャンだか怪しい気配がするぞ
    イチゴちゃんは大人しい性格で、人懐っこく、ちょっと怖がり‥‥近所のチビ猫スズに威嚇されると尻尾を巻いて逃げ出しちゃうのだが、この写真を撮った時は幸いスズと出合うことがなかった。アブストラクト絵画や幾何学模様のソファみたいな黒茶白の三毛ネコは何度見ても見飽きない。仲良く遊んでいる間に陽も翳って来たので、Cyber-shotの「ソラリ」機能を試してみる。黄昏は逢魔が時?‥‥なぜかイチゴも屋根付き駐車場の周囲を窺って「バイオハザード」の女主人公みたいに注意深く行動していた。まるで暗闇の中に魔物でも潜んでいるかのような妖しい空気感が漂う。目に見えないものまで撮ってしまう「ソラリ」効果恐るべし。心霊ネコ写真かもしれません。フラッシュの光に怯えたのか、イチゴはカメラの視線を警戒するようになっちゃいましたが。

    ♯108│アク│飼い猫 ── 左耳だけスコティッシュ・フォールド?
    左耳だけ折れているので、ペタちゃんのようなスコティッシュ・フォールドの変種なのだろうか?‥‥それにしても珍しいと不思議に思っていたら、たまたま写真を見たネコ好きのオバさんが「ネコ同士で喧嘩してから、片耳が垂れるようになっちゃったのよ」と教えてくれた。そうか、あの妖艶なムンクなのか?‥‥先天的な遺伝性ではなく外傷性の怪我で左耳の軟骨が折れているのなら治療によって元に戻る可能性もある。もっともアクちゃんは片耳が折れちゃったよ!‥‥と嘆き悲しんでいるようには全然見えないけれど。ロシアンブルー風の毛色と毛並みが美しく、大きな丸い睛で見つめて訴えるように、ニャ〜〜と鳴く。そのすべてが神秘的で単なるネコとは思えない。ソランやクロラと同じ飼主に飼われているネコなのだが、暫く姿を見かけなかったのは、もしかしたら耳の怪我で治療療養していたせいなのかもしれない(註:ムンクとは別ネコ28号でした)。

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    各記事のトップを飾ってくれた猫ちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第12集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下にあるナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、#ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ100匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。#100はパルちゃん。ソラン、マー、イチゴ‥‥は常連ネコ。「ネコ・ログ」以外の隠れネコを含めた全写真を見たい人は一覧カタログ〈101匹ネコちゃん大行進!〉や一覧リスト〈CATS ー LIST〉を参照してね。『猫の絵画館』(平凡社 2008)は日本画の中に描かれた「和猫」を蒐集したムック本。洋猫編も期待しちゃいます。あなたの街のネコたちにも愛とゴハンを‥‥。

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    猫の絵画館

    猫の絵画館

    • 著者:谷川 渥 / 合田 佐和子 / 榊原 吉郎
    • 編集:コロナ・ブックス編集部
    • 出版社:平凡社
    • 発売日:2008/03/03
    • メディア:単行本
    • 目次:凝視する可憐な猫たち / ナルシストの近代の猫たち / 江戸から明治時代の繊細な猫たち / 愛くるしい錦絵の猫たち / 戯れつくユーモアたっぷりの猫たち / 妖怪になった猫たち / 擬人化された猫たち

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