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猫のノリータ [c a t 's c r a d l e]



  • NOLITA(EMI 2004)Keren Ann
  • 2人のケレン・アン・ザイデル(Keren-Ann Zeidel)がNYの舗道を歩く。背後の壁面に描かれた大きな灰色猫(チェシャ猫ノリータ?)が笑っている。パリとNYで録音されたせいか、仏語と英語詞の曲が半々という構成。彼女たちは2つの国を行き来するボヘミアンを暗示しているのだろうか。巨大なチェシャ猫が笑うアメリカは彼女たちにとって「不思議の国」なのかもしれない。ヴァイオリン、トランペット、ハーモニカ、ピアノなど、英語詞曲はアメリカっぽい土臭さも漂っているけれど、アルバム全体は移ろい行く都市生活者の倦怠感に覆われている。タイトル曲〈Nolita〉のどんよりと曇った空のような心象風景、カントリー風のハーモニカが薔薇の薫りを運ぶ〈Roses & Hips〉、シューゲイズ風のノイズ・ギターがバックで内省的に鳴り続ける〈One Day Without〉‥‥。ポエトリー・リーディング〈Song Of Alice〉の後にシークレット・トラックが隠されている。ユーロ盤はエンハンスト仕様。US盤《Nolita》(Blue Note 2005)は曲順やジャケット・デザインが一部で異なっています。

  • NO POCKY FOR KITTY(Matador 1991)Superchunk
  • ノース・カロライナ出身の4人組Superchunkの2人、Laura Ballance(ベース)とMac McCaughn(ヴォイス&ギター)は、今やMERGEレコードの主宰者としての方が有名かもしれない。20年前、メジャーへの道を拒否して自主レーベルを立ち上げた2人も反骨精神に溢れていたが、2ndアルバムの日本盤リリースを許さなかったArcade Fireも偏屈だった。《Neon Bible》(Merge 2007)の大ブレイクは彼らだけではなく、MERGEレーベルの知名度も上げた。アルバムはMATADORから出た後で、MERGEから再リリース(1999)されている。たった3日間のレコーディング(1991年4月21〜23日、午後6〜午前6時)で完成した2ndアルバムには若さと集中力が漲っている。名前は記されていないけれど、Steve Albiniの録音だと言われている。〈Seed Toss〉はシングル・コンピ盤《Tossing Seeds》(1992)のタイトルにも引用された代表曲の1つ。「ネコ・パンチ」の木版画はMac自身が彫ったもので、〈Punch Me Harder〉という曲も収録されていた。

  • WHERE YOU BEEN(Blanco y Negro 1993)Dinosaur Jr
  • 「保健所」という名の強制収容所に連行された引き取り手のないネコたちの末路は悲しい。ガス室送りになる捨て猫やノラ猫は年間40万匹に及ぶという。飼い猫・ノラ猫を問わず、外猫たちも外界の脅威に曝されている。交通事故による死者は年間1万人を下回るようになったが、年間何万匹のネコたちがクルマに轢き殺されているのだろうか。右手の親指を立ててヒッチハイクしているバケモノじみた男がクルマに轢かれたネコに「Where You Been」と言っているのか、それとも瀕死のネコが男に訊いているのか?‥‥男のズボンのベルトには拳銃が挿まれている(オモチャのピストルをパンティに挿んでTVゲームするLadyhawkeの「猫ジャケ」のように)。ノイジーなメジャー7thコードが炸裂する〈Out There〉、裏声で歌ったNeil Young風の〈Not The Same〉‥‥。恐竜息子の咆哮のように、J Mascisはギターを弾き捲る。4つ折りスリーヴを開くと裏ジャケを拡大した絵、ムンクの「叫び」みたいに抽象化された人間、両目と口が暗黒の孔と化した亡霊のような人物が描かれている。

  • SMILES LIKE A SHARK(Dedicated 1997)Mulu
  • フリーハンドの碁盤状のマス目の中に小さなイラスト28種が描かれている。ネコ少年、カメラ、ネコ、サメ猫、食虫植物、地球、口髭の女(?)、ロボット、サメ少年など‥‥Rachel Merrimanのカラー・イラストが可愛い。表ジャケのモチーフがインナー・スリーヴに反映される。〈Pussycat〉の歌詞ページには少年と少女を背中に乗せた茜色のネコが描かれている。Muluは90年代後半、雨後のタケノコのように出現した英トリップホップ・ユニットの1つで、Alan EdmundsとLaura Campbell、男=サウンド・作曲、女=ヴォイス・歌詞という定番の男女デュオ。「Mulu」という風変わりなユニット名はThomas Dolbyの曲から採られたらしい。カラフルな絵本のようなイラストのせいか、ダークで陰鬱なトリップホップ勢の中では例外的に明るい色調に彩られている。その一方で、耽美的なLambやウィアードなMolokoなどのような強烈な個性には欠けるかもしれない。

  • ESSA BONECA TEM MANUAL(Epic Sony 2004)Vanessa Da Mata
  • 「猫ジャケ」の王道は「美女と猫」のカップルに決まっているが、アイドルにネコを抱かせただけの安直なアルバムも少なくない。カメラ目線のVanessa Da Mataに媚びることなく2匹のネコが腕の中から擦り抜ける。インナー・スリーヴの中の彼女はネコの代わりに薔薇の花束を抱く。〈Rose Petals Incense & A Kitten〉という名曲があるように、「薔薇と猫」 も相性が良い。ネコの顔が見たいというファンのために、CDを取り出すと透明トレイにカメラ目線のネコが現われる趣向も心憎い。Vanessaの2ndアルバムはLiminhaの全面プロデュ ース。全12曲中、カヴァ曲が2曲、彼女の自作曲とLiminhaとの共作が5曲ずつ。Caetano Velosoのレゲエ曲〈En Sou Neguinha?〉、エレクトロ・サンバのアルバム・タイトル曲〈Essa Boneca Tem Manual〉、Liminhaの弾くベース・ラインがカッコ良いロ ック〈Ai, Ai, Ai...〉など、Marisa Monteをスウィートにしたヴォイスが心地良い。

  • DALTONIEN(Saravah 2006)Pierre Barouh
  • 映画『男と女』への出演や主題歌で知られるPierre Barouhは1934年生まれ。9年振りのアルバムは1999〜2006年の間にパリや東京で録音された17曲が収録されている。7人編成のUkulele Club de Parisが伴奏するラップ調の〈A Coups D'A...〉、ミュゼット・グループのLes Primitifs du Futurと共演した〈Les Indifferentes〉、A. C. Jobinの仏語カヴァ曲〈Corcovado〉、Billie Holidayに捧げた〈Billie〉や映画『モダン・タイムス』の挿入曲〈Titine〉。戸川昌子が日本語で歌う〈Au Kabaret De La Derniere Chance〉には笑ったが、一番驚いたのはアルバム・タイトル曲〈Daltonien〉の中で、ちんどんブラス金魚のメンバーに「ダルトニアンってねえ、フランス語で「色盲」っていう意味なんだよ」と日本語で説明するところ。「色盲である自分は目の前にいる人の肌が何色でも関係ない」。1996年にカンボジアで撮影したロード・ムーヴィ『La Rencontre Joyeuse』(DVD)がオマケに付いている。Pierre Barouhに頬ずりする仔猫の寝顔が可愛いなぁ。

  • WRONG FACED CAT FEED COLLAPSE(Anticon 2006)SJ Esau
  • 青い万力で頭を締め付けた上半身裸の中年男がキッチンでキャット・フードを与えようとするのだが、飼い猫(下半身しか描かれていない!)は見向きせずに行ってしまう表ジャケ。戻って来たネコが万力とエサ皿の傍らで倒れている男を見つめている「裏ジャケ」。ネコのエサ遣りに失敗した男の死?‥‥SJ EsauことSam Wisternoffのデビュー・アルバムは表・裏2枚のスリーヴのように謎が多い。フリー・フォーク風のギターの弾き語りで始まった曲が突然変調を来す〈Cat Track〉。まったりした6拍子の〈Wrong Order〉など、ドリーミングな曲調に狂躁的な騒音や不穏な崩壊感が加わる。CDはスリーヴを兼ねた正方形の紙が1枚だけ。全12曲34分と素っ気ないアルバムだが、その「質量」は重量LP盤のように重い。

  • PERSON PITCH(Paw Tracks 2007)Panda Bear
  • 円形プールの中に、水着姿の子供たちと動物が犇めき合っている。トラ、ゴリラ、コアラ、アザラシ、パンダ、ラッコ、アルパカ、ワニ、ジャッカル、アシカ‥‥Animal Collectiveの中心メンバー、Panda Bearのソロ・アルバムは「猫ジャケ」というよりも「動物ジャケ」と呼んだ方が良いかもしれない。手前で後を向いている赤い帽子を被った少女の肩に子猫がいる。子供と動物の「混浴写真」はアグネス・モンゴメリー(Agnes Montgomery)によるアートワークで、プールの子供たちの写真に帽子と動物がコラージュされている。蛇腹状のスリーヴには表ジャケの他に7点の作品が載っていて、どのコラージュ写真もジャケットに使いたいくらいファンタスティックで素晴しい(彼女の公式サイトでアートワークが閲覧可能)。ブルガリアン・ヴォイス風の女声コーラスが印象的な〈Im Not〉やアフリカ〜レゲエ / ダブのリズムを導入した〈Good Girl〉など、Panda Bearは「ウォール・オヴ・サウンド」にエスニックな衣裳をコラージュして、ロマンチックで華やかな世界を創り出す。

  • SHOW ME YOUR TEARS(Cooking Vinyl 2003)Frank Black & The Catholics
  • Pixiesの解散後も精力的にソロ・アルバムを発表し続ける巨漢の怪人Frank Black(Black Francis)は、その栄光を裏切るような凡庸なロックで多くのファンを落胆させて来た。もし解散しなければ、The Cureのようなバンドになっていたかもしれないという夢想を打ち砕いて‥‥。2008年のBreedersの復活アルバムに続く、Pixiesの再結成〜ニュー・アルバムのリリースはあるのだろうか。バンド名義のアルバムはスタジオ・ライヴの一発録りで一切編集されていない。言うまでもなく、ニューウェイヴの片鱗は皆無で、ブルーズやカントリーの要素も強い。白い招き猫が可愛い「猫ジャケ」。右手で「千万両」の小判を掴み、右手を挙げている白ネコちゃんは裏ジャケやCDトレイにも使われて大活躍。指板にトランプのマークが埋め込まれた手前の10弦ギターは横に寝かせて弾くペダル・スチールでしょう。

  • SAFE INSIDE THE DAY(Drag City 2008)Baby Dee
  • Baby Deeの中性的なヴォイスは男女の性差を超えている。彼女のピアノの弾き語りを共同プロデュースのBonnie ‘Prince’ BillyとMatt Sweeneyが好サポート。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ハープ‥‥といった弦楽アンサンブルから想像される優雅なサウンドに反して、彼女のヴォイスはTom Waitsのようにエモーショナルで狂おしい。ダイニング・テーブルの上にある燭台(ネコじゃらしの蜂?)を見つめる黒猫。壁面に描かれた「火の鳥」。奥の部屋にあるアップライト・ピアノの譜面立てに斧が置いてある(譜面台の上の斧は冷蔵庫の中の拳銃のように光を浴びて輝く)。黒猫ジャケ、彼女が黒猫の胸を撫でるインナー・スリーヴ。黒猫のシルエットがプリントされたピクチャーCD‥‥まさに「猫ジャケ」の見本のような素晴しいアルバムである。〈A Christmas Jig For A Three-Legged Cat〉というインスト曲が3本脚のネコちゃんを祝福する。

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  • スニンクス版 「ネコード10箇条」(2022・2・22 改定)
    • 洋楽アルバムであること(邦楽、シングル、12インチ盤などは含まない)
    • 表ジャケにネコがいること(裏ジャケ、インナー・スリーヴ、盤面などを除く)
    • 写真、イラスト、オブジェ、コスプレ(仮装)など、ネコの形態は問わない
    • トラ、ヒョウ、チータ、ライオンなど、大型ネコ科動物は除外とする
    • 他の動物がいても、レイアウトの一部でも、ネコが1匹でもいればOK!
    • レーベル(Fat Cat、Asthmatic Kittyなど)のネコ・イラスト・マークはNG!
    • タイトルやアーティスト名に「cat」や「kitten」が入っているだけでは不可
    • アートワークや音楽性も考慮する(← 独断と偏見?)
    • 誰でも知っている有名な「猫ジャケ」は避けて、スニンクスの独自性を出す
    • 自腹で購入したネコード(LP・CD)であること


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    • 「猫スリ」と同じく『猫ジャケ』(2008)とネコ被りしないように留意しました

    • アルバム・タイトルの ◆ をクリックすると、拡大された 「猫ジャケ」 が表示されます

    • 記事タイトルの右に一覧カタログのリンク・ボタン(肉球アイコン)を付けました

    • Pierre Barouhの発言は「OPENERS」のインタヴュー記事から引用しました

    • 「Hello Pussycat」に1200枚以上の「猫ジャケ」が紹介されているのだ^^;
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    Nolita

    Nolita

    • Artist: Keren Ann
    • Label: EMI
    • Date: 2004/12/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: Que N' Ai-Je? / Greatest You Can Find / Chelesa Burns / One Day Without / Forme et le Fond / Nolita / Roses & Hips / Midi Dans le Salon de la Duchesse / Onde Amère / For You and I / Song of Alice


    Essa Boneca Tem Manual

    Essa Boneca Tem Manual

    • Artist: Vanessa da Mata
    • Label: Sony Brazil
    • Date: 2005/06/07
    • Media: Audio CD
    • Songs: Ainda Bem / Eu Sou Neguinha? / Eu Quero Enfeitar Você / Música / Essa Boneca Tem Manual / Ai, Ai, Ai... / Joãozinho / Ela x Ele na Cidade Sem Fim / História de uma Gata / Não Chore, Homem / Vem / Zé


    Daltonien

    Daltonien

    • Artist: Pierre Barouh
    • Label: Saravah
    • Date: 2007/02/20
    • Media: Audio CD(CD+DVD)
    • Songs: À coups d'A / Les indifférentes / Il est si tard / Quelques notes / Corcovado / La paresse / Intro mémoire / Mémoire / Daltonien / Billie / Pierrot / Titine / Au kabaret de la dernière chance / L'ère des effets secondaires / Ovalie / S'il était deux fois / Crépuscule


    Person Pitch

    Person Pitch

    • Artist: Panda Bear
    • Label: Paw Tracks
    • Date: 2007/04/23
    • Media: Audio CD
    • Songs: Comfy In Nautica / Take Pills / Bros / I'm Not / Good Girl / Carrots / Search For Delicious / Ponytail


    Safe Inside The Day

    Safe Inside The Day

    • Artist: Baby Dee
    • Label: Drag City
    • Date: 2008/01/22
    • Media: Audio CD
    • Songs: Safe Inside the Day / Earlie King / Compass of the Light / Only Bones That Show / Fresh out of Candles / Big Titty Bee Girl (From Dino Town) / Christmas Jig for a Three-Legged Cat / Flowers On The Tracks / The Dance Of Diminishing Possibilities / Bad Kidneys / You'll Find Yo...

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    コメント 4

    ぶーけ

    カレン・アンって昔バンジャマン・ビオレイと組んでたんですよね。
    その頃のアルバムを一枚だけ持ってます。
    その後、どう変わったのかしら?

    ヴァネッサ・ダ・マタ(?)も素敵ですね。^^
    by ぶーけ (2008-11-05 14:24) 

    びっけ

    こんにちは。
    にゃるほど、猫ジャケ特集なのですね。
    『DALTONIEN 』の猫ジャケ、拝見しました。
    おじさん(オイオイ(^^;)は、置いておいて、子猫 可愛いです。
    信頼しきって眠っているのでしょうね。

    by びっけ (2008-11-05 15:01) 

    sknys

    ぶーけさん、コメントありがとう。
    カレンもバンジャマンも前から気になっていたけれど、
    コピーコントロール盤(CCCD)だったので避けていました^^
    「Nolita」はNorth of Little Italy(NYの地名)の略。
    内容は余り変わっていないと思います。

    某WAVEの閉店セールに行ったら、¥525で売っていた!‥‥号泣。
    バンジャマンの実妹コラリー・クレモン(Coralie Clement)の
    新作が出ていました^^
    ヴァネッサのアルバムは「猫ジャケ」で、しかも「薔薇ジャケ」ですね。
    「薔薇ジャケ」特集の1枚に加えて下さい^^
    by sknys (2008-11-05 23:13) 

    sknys

    びっけさん、コメントありがとう。
    ちょっと言葉足らずでした。
    拙記事を露骨に宣伝するのも憚れたので‥‥^^;

    実はピエール・バルーの「子猫ジャケ」を見て欲しかった。
    末の娘さんが神社で拾って来た仔猫ちゃん。
    『猫ジャケ』(ミュージック・マガジン)のインタヴュー記事によると、
    トラックのエンジンの中に入り込んでいた仔猫は、
    オイルに塗れて真っ黒になっていたそうです。

    下記のサイトにウェブ・マガジンのインタヴュー記事があります。
    http://openers.jp/culture/c_guest_lounge/c_guest_lounge010.html
    by sknys (2008-11-05 23:43) 

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