SSブログ

ニホンとニッポン [c u l t u r e]

外来語を日本語でカナ表記する際に伴う困難さ‥‥漢字の起源である漢語は措くとしても、所謂「横文字」、それも「地名」や「人名」という固有名詞に至っては毎回書く度に悩まされます(スペインの首都は「マドリッド」それとも「マドリード」?‥‥ナチス総統閣下は「ヒットラー」それとも「ヒトラー」?)。一番良い方法はオリジナル表記のまま書くこと──今でこそ「ビョーク」で定着しているBjorkも過去に「ビョルク」などと表記されていた時代があった──ですが余り一般的ではないし、ときどき原語の綴りが分からない場合もあって途方に暮れてしまう。たとえば女優のミラ・ジョヴォヴィッチ(Milla Jovovich)は良くても、シガーニィ・ウィーヴァーと書こうとしてカナ表記に少々不安を感じた時、正しい綴りは?‥‥って、考え込んで悩んじゃう。確か「Si」で始まっていたような気がするんだけれどね(Sigourney Weaver)。手許にパソコンや「海外女優名鑑」などの検索メディア、彼女の出演した映画のヴィデオ(DVD)やパンフレット類がなければお手上げ状態だ。

コンフェデ杯フランス大会(2003)で活躍したトルコ代表の若きエースFWの表記・発音も新聞・TVなどの各メディアで「トゥンジャイ」「トゥンカイ」とバラバラで、トルコ語に造詣の乏しい者にとっては果してどちらが正しいのか全く分からない(ユニフォームのネームは確か「‥CAY」だったと思う)。遂に日本で写真集まで出てしまった甘いマスクのイルハン・マンスズ(Ilhan Mansiz)王子は統一されていても、伊ユヴェントス(ユベントス?)の貴公子がデルピエロなのかデル・ピエーロなのか未だに釈然としない。オリジナル表記なら仮令正しく発音出来なくても問題ないけれど、カタカナ表記→誤記してしまったら取り返しが着かないし(穴があったら入りたい?)、カナ表記から元の綴りを想像することも窮めて難しい。「ビョーク」は正しく表記・発音出来たとしても、彼女のファミリィ姓「グズムンスドッティル」のスペル(アイスランド語)を精確に綴れる人は少ないでしょう。

一部のメディアで、稲本潤一選手が所属していた英プレミア・リーグのFulhamを「フルハム」と呼んでいるのも首を傾げたくなります。解説者やゲストは「フラム」と発音しているのに局アナだけは「フルハム」と言って譲らない。それならば何故デイヴィッド・ベッカム(Beckham)様を「ベックハム」と呼ばないのか?‥‥全く以って面妖な話ですね。伊セリエA(アー)をセリエA(エー)と英語読みしている某TV局も相当に変ですよ。たとえばイタリアの有名な女性歌手Alice(アリーチェ)が来日して某TBSの番組に出演したら「エリス」って呼ぶのでしょうか。外来語(横文字)のカナ表記に関しては統一表記法が定められているわけではなく、各々の書き手の恣意的な私見に委ねられている。たとえば故・吉田健一のように断乎として「ー」を使わず「コオヒイ」や「ヨオロツパ」‥‥と旧仮名・旧字体で書く文学者もいたし、今日のエンタテイメント界でもミステリ / ミステリー / ミステリィの3表記が自由に混在している。

                    *

最近スポーツ選手名の表示などで流行っている、たとえば「David BECKHAM」という風にファミリィ・ネームを大文字で書く表記法には一理あります。日本人の名前のように欧米と姓・名が逆順の場合は「Shunsuke Nakamura」と逆にローマ字表記したとしても欧米人には、どちらがファースト・ネームなのか分かり難い。でもファミリィ・ネームを大文字化すれば「NAKAMURA Shunsuke」と一目瞭然‥‥これなら姓・名を引っくり返す必要もないし外国人も迷うことはありません。日本人が国際的な学会や専門誌に英語で研究論文を発表する際には以前から、この表記法が全面的に採用されているそうですが(実は森博嗣氏からの受け売りで、彼の「講談社ノベルス」の表紙は総て「MORI Hiroshi」と表記されている)、一般人の皆さんも海外のメル友ヘの「差出人名」は、この表記で統一してみたらどうかしら?‥‥この方が理に適っていますよ。

「世界水泳バルセロナ大会」(2003) ──根がカナヅチなので「水泳競技」の過酷さが実感として迫って来ないのは残念ですが、100・200m平泳ぎで2個の金メダル(世界新)に輝いた北島康介選手もKosuke KITAJIMA(JPN)と表示されていましたね。でも、どうしてKITAJIMA Kousukeじゃないのかな?‥‥中国選手は確かファミリィ・ネームが先に来ていたのに‥‥。それにしても古舘伊知郎の「絶叫中継」には笑いました。「泳ぐ世界遺産」とか「鮫肌の貴公子」とか「オランダの水蟷螂」とか「引き締まった筋肉のアルデンテ」とか「見えない白馬に跨がった王子様」(意味不明?)とか‥‥。その中でも200m平泳ぎ決勝の「都営荒川線だぁ」には絶句!──上記の牽強附会のキャッチコピーは予め用意していたものだと思うけれど、これは古舘ならではの咄嗟のアドリブ(東京23区の住民でなければ何のことか分からない地域限定ギャグ?)でしょう。

                    *

「日本」の音読みが「ニホン」なのか「ニッポン」なのか判然としないのもイエス・ノーの意思表示をハッキリさせない曖昧な日本人的体質に由来しているのでしょうか。「新・クイズ日本人の質問」(NHK 2000-03)の最終回でも司会の古舘伊知郎が触れていたように、どちらの読み方でも良いそうですが、その説明とは裏腹に放送業界ではいつの間にか「ニッポン・ニッポン人」に暗黙の裡に統一されてしまった(当の古舘からして「ニッポン人」と発音している)。国際的なスポーツの実況中継のみ成らず、ニュースやヴァラエティ番組など、NHK・民放を問わずアナウンサ達は恰も判で捺したかのように一糸紊れず右に倣えで(欧州サッカー・リーグやクラブ・チーム名、所属選手の呼び方はTV局によってメチャクチャな癖に)、四六時中「ニッポン」と連呼して憚らない。毎日「ニッポン・ニッポン人」と言い続けることで、従順で鈍感な国民の耳を馴れさしてしまおうという姑息な魂胆なのか‥‥まるでW杯日韓共催(2002)やアテネ五輪(2004)の熱狂が今もなお続いてるかのような錯覚を起こさせる暑苦しい響き(言述)ではないか。

総務省や文部科学省からの暗黙の通達(締め付け?)があったのか、国威発揚を促すオリンピックや日本代表の国際試合で実況アナウンサやサポータ達が「ニッポン」を連呼するのは仕方無いとしても、つい数年前に「トルシエ・ジャパン」と呼んでいたマスコミがW杯イタリア大会(2006)の直前に「ジーコ・ニッポン」と言い出したのには笑止千万!‥‥どうしても「ニッポン」と呼ばせたいのね(姑息な作為性がミエミエじゃん)。それに幾ら国内的に日本=ニッポンをアピールしてみたところで対外的には、どうしようもなく「ジャパン」(JPN)なわけで、この内と外の齟齬乖離・チグハグさは国際的見地からも異和感を覚えるし(当世コギャル用語を借りれば)超キモい。フランス代表のことをユニフォームの色に準えて「Les Bleus」と称しますが、この調子だと日本代表も「ニッポン・ブルー」(サムライ・ブルー?)とか「岡田ニッポン」などという気色悪い名称で呼ばれ兼ねない。

昔から「サヨナラ」という日本語の響きが美しいと世界的に言われて久しいけれど、「ニホン」という音読みにも同じような美を感じます。静的に美しい佇いの「ニホン」に対して、「ニッポン」には情動的な晴れがましさ‥‥何かザワザワと気持ちが不安定で落ち着かなくなってしまう居心地の悪さを感じてしまう。「ニホン」という詩的な響きは例えば〈遠い世界に〉の3番の歌詞──《雲に隠れた小さな星は / これが日本だ / 私の国だ♪‥‥》のように歌われるべきで、これを「ニッポン」と発音したら総てがブチ壊しです。引退した山口百惠さんだって〈いい日旅立ち〉の中で「ニホン」と歌っていたではありませんか。つまり「ニッポン」は凡そ歌詞や詩歌には不向きで「ニッポン」読みの歌の例は?‥‥と急に訊かれても「軍歌」はいざ知らず、残念ながら「赤銅鈴之助」(「スケ」の字はこれで良かったのか?‥‥ウロ覚え)ぐらいしか思い浮かびません。

机上の『改訂 新潮国語辞典』(新潮社 1974)を引いてみると、「ニホン」と「ニッポン」両者の読みの共存・妥当性を認めた上で「ニホン」の方を採用していて、実際の見出し語の記述も「ニホン」(202行、複合語56項目)に対して「ニッポン」(4行)と、圧倒的に前者の方をメインに扱っています。ちなみに『広辞苑 第5版』(岩波書店 1998)でも《現在も、よみ方については法的根拠はないが、本辞典においては、特にニッポンとよみならわしている場合以外はニホンと読ませることにした》と説明した上で、「ニホン」(556行、複合語151項目)、「ニッポン」(18行、複合語4項目)という内訳になっている。また両者が併用出来るといっても「ニホン」を含む複合語の総てが「ニッポン」に言い換えられるわけではない。

「ニッポン」と発音する複合語は『広辞苑』の「にっぽん」の見出しの中にある「日本一」「日本永代蔵」「日本橋」「日本晴」ぐらいのもので、たとえば「日本アルプス」「日本狼」「日本海」「日本髪」「日本銀行」「日本国憲法」「日本語」「日本猿」「日本三景」「日本酒」「日本住血吸虫病」「日本書紀」「日本人」「日本刀」「日本道路公団!」「日本脳炎」「日本舞踊」「日本間」「日本列島」「日本料理」など‥‥を「ニッポン」と言い換えようとすると木に竹を接いだような耳障りな異和感だけが舌先と唇に残留する。NHKが1日中、証拠にもなく「ニッポン、ニッポン人」と放送しているのはNHKの正式名称が「日本放送協会」(Nippon Hoso Kyokai)だからなのでしょうか?‥‥「日本(Nihon)放送協会」と発音する方が一般的ではないか(ちなみに『新潮国語辞典』も『広辞苑』も「日本(ニホン)放送協会」と表記している)。民放のラジオ局(1242kHz)はNHKと区別するために「ニッポン放送」と名乗っているし、日テレは言うまでもなく「日本(ニホン)TV」の略称である。

                    *

マスコミや放送業界へ「ニッポン」と発音するように圧力を掛けているくらいだから、「集団レイプする人(男)の方が元気があって良い」とか「子供を1人も産まなかった女の老後の年金を国が面倒見るのはおかしい」とか「刑事責任能力のない(14歳以下の)少年犯の親は市中引き回しの上、打ち首にすれば良い!」とか‥‥呆れた失言続きで国民を愚弄している自民党の大物政治家たちも当然「ニッポン」の信奉者なのだろう。コリズニ元総理の数少ない美点を敢えて挙げるとすれば、官僚の造った原稿を棒読みする国会答弁は兎も角、所謂ブラ下がりの記者談話で「ニホン」と発音していたこと──たとえば「イラクの隠し持っている大量破壊兵器は日本(ニホン)にとっても大変危険だ」というコンテクストで(もっとも発言の前段部分は到底納得出来るものではないが)──と、株式投資(博打)をやらないことぐらいでしょうか。政治家が「ニッポン・ニッポン人」と連呼し出した時が本当に危ない時‥‥そのうち誰かが声高に胸を張って「ニッポンコク、ケンポウカイセイ」とか言い出すんだろうな。

                    *

  • 「美しい国、日本」というキャッチコピーがダメだったのは「ニッポン」と発音しているからですね

  • ACミランのカカ(Kaka)選手を「カカア」と発音するのだけは止めて欲しいなぁ

                    *



広辞苑 第六版

広辞苑 第六版

  • 著者:新村 出(編)
  • 出版社:岩波書店
  • 発売日:2008/01/11
  • メディア:大型本


新潮国語辞典 ── 現代語・古語

新潮国語辞典 第二版 ── 現代語・古語

  • 著者:山田 俊雄 / 小林 芳規 / 築島 裕 / 白藤 礼幸(編)
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:1995/11/10
  • メディア:単行本(ソフトカバー)


ヨオロツパの世紀末

ヨオロツパの世紀末

  • 著者:吉田 健一
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:1970/09/30
  • メディア:単行本


Exit

Exit

  • Artist: Alice
  • Label: Wea International
  • Date: 2001/09/25
  • Media: Audio CD
  • Songs: Dimmi di sì / Open your eyes / Il vento soltanto / L'immagine / Exit / Isole / Il contatto / Il cielo sopra il cielo / I am a taxi / 1943 / Transito / Lo specchio / L'étranger

タグ:culture Japanese
コメント(8)  トラックバック(0) 

コメント 8

こにゃ

こんばんわっ^^

この猫ちゃん、以前飼っていた「にあ」さんに似ています(模様が(笑))
「ニッポン」て表すと、頑張りすぎている感じがします。
何故だろう~・・・(あ、スポーツの応援の時は違うけど)
by こにゃ (2008-01-21 20:37) 

sknys

こにゃさん、コメントありがとう。
デブ猫のゴンちゃんは2回目の登場です。
http://blog.so-net.ne.jp/_images/blog/sknys/2044392.jpg

気難し屋さんというよりは気紛れネコちゃんで、
得意技は脚の脛に頭突き攻撃!
‥‥急に姿が見えなくなったと思ったら、
何と玄関ドアの横に猫専用の出入り口があったのだ。

「ニホン」は好きですが「ニッポン」は嫌いという記事ですね^^
「○ッポン」という促音+破裂音+撥音の組み合せが高揚感を煽るのかな?
「スッポンポン」は大好きですが^^;
by sknys (2008-01-22 21:04) 

モバサム41

「ゲーテとは俺のことかとギョエテ問い」ですね(笑)
後半の漢字の読み方については、年金記録問題の核心を突いていると思います。
by モバサム41 (2008-01-24 18:58) 

sknys

モバサム41さん、コメントありがとう。
洋の東西を問わず、固有名詞の読み方は難しい。
その昔、レイ・コーダー(Ry Cooder)とか
アルマン・ブラザーズ・バンド(Allman Brothers Band)とか
表記されていた時代がありましたね^^

NHKは「ニッポン・ニッポン人」で気味悪いくらいに統一されています。
一糸乱れぬ某国のマスゲームや学校給食の「カレーの日」みたいに‥‥。
昨夜の「報道ステーション」で古舘伊知郎は「ニホン」と言っていましたが。
by sknys (2008-01-24 20:04) 

おきざりスゥ。

ご意見全面的に賛成です。
特に個人名はアイデンティティにも関わる問題ですもの、ぜひとも本人の母語か無理なら可能な限り近い発音・表記にするべきでしょう。

…でも…でもね物事には例外ってありますよね?

スナフキン)スウェーデン語Snus mumrik スヌス ムムリク、フィンランド語Nuuskamuikkunenヌースカムイックネン、英語Snufkin)←Wikiより引用

もしクイズ番組に出場の機会を得て「初めて世界一周をした人は誰?」って質問が出たなら胸を張って「マガリヤエンシュ」と回答しましょう。
「残念マゼランでした~」って云われたら「彼の母国ポルトガルでは彼の名はマガリヤエンシュです!」と堂々の反論もしましょう!
でも…
’69年と’72年のアニメが原作との乖離の余り作者トーベ・ヤンソンを激怒させた経緯を知っていても尚スナフキンをスヌス ムムリクやらヌースカムイックネンやらとは呼べません~
たとえ彼本人が「僕はスヌス・ムムリク。嗅ぎタバコを吸う男という意味さ」って自己紹介しても厭…
どーかシトツ特例として勘弁して貰えないかしらん?
                 自己紹介されてもスウェーデン語わからないけどね(笑)
by おきざりスゥ。 (2008-01-30 13:22) 

sknys

おきざりスゥ。さま、コメントありがとう。
海外の個人名は出来るだけ母国語に近い発音で表記したいけれど、
カタカナ(脳内)変換する際に悩んじゃう。

面倒臭いので海外ミュージシャン名は、Kate BushやBjorkなど
横文字のまま表記しています^^
母国語の発音が異邦人にとって馴染まない場合もありますね。
「スナフキン」は英語読みで良いのでは?

富岡多恵子がアメリカ人と英語で会話していて聴き馴れない人名が出て来た。
「デュシャンプ」って、誰のことかと思ったら‥‥マルセル・デュシャン
(Marcel Duchamp)のことだったという笑い話もあります。

ブラジルのサッカー選手は愛称で登録されていることが多い。
カカ(Kaka)の本名はリカルド・イゼクソン・サントス・レイチ
(Ricardo Izecson dos Santos Leite)。
彼の弟が「リカルド」(Ricardo)と正しく発音出来ずに
「カカ」(Caca)と呼んでいたことに由来するらしい。

http://en.wikipedia.org/wiki/Kak%C3%A1#Nickname
by sknys (2008-01-30 23:14) 

おきざりスゥ。

今朝(080404)フジTV系列〈とくダネ!〉で今年度から開始される小学生への英語の授業で使用する教材の内容を紹介していました。
(“英語の教科書”ではなく“英語ノート”と呼称するらしいのですが何故かの詳細は聞き漏らしました)
それによると自己紹介の会話においては家族名が先で個人名が後となっており「私達の頃とは違いますね。これが今のスタンダードです」と笠井アナが述べていました。
(家族名が大文字表記だったかどうかは見落としてしまいましたが…)

どーやらそーゆーことのよーですよ?
by おきざりスゥ。 (2008-04-04 16:30) 

sknys

小学生の英語教育はナンセンスだと思いますが、
どうせ教えるなら「英語」だけなんてミミッチいことを言わないで、
フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語
‥‥などの中から好きな語学を選べるようにしましょう。
旧制高校(持堂院高等学校)はドイツ語やフランス語を選択出来たんでしょ?

Florencia RUIZさんのインストア・ライヴ(渋谷)を観て来ました。
スペイン語を履修しておけば良かったなぁ。
「OKIZARI Sue」って、無国籍風でカッコ良いかもよ^^
by sknys (2008-04-05 00:37) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0