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ポップトーンズ [a r c h i v e s]

  • Drive to the forest in a Japanese car
    The smell of rubber on country tar
    Hindsight done me no good
    Standing naked in the back of the woods
    The casette played Poptones

    I can't forget the impression you made
    You left a hole in the back of my head
    I don't like hiding in this foliage and peat
    It's wet and I'm loosing my body heat
    The casette played Poptones

    This bleeding heart
    Looking for bodies
    Nearly injured my pride
    Praise picnicking in the british countryside
    Poptones
    (Poptones 1979)


John Lennonの「暗殺」後、虚脱感と引き換えに取り憑かれたのが、John Lydonの率いるパラノイア・バンド、PIL(Public Image Ltd.)の悪夢のような日々だった。森の中へドライヴする日本製自動車(Japanese Car)の中で、どうやら「射殺」されてしまうらしい主人公‥‥カー・ステレオから「Poptones」が流れて来ると歌われる曲〈Poptones〉は、その前後をカセット・テープ特有の効果音で補強することで重層構造を演出しているのだが、凡そ「ポップ調」と呼べるような音像ではない──怨念オクターヴ・ダブの彼方から聴こえて来るJ. Lydonのオカマ的呪詛!──ことを言っておかねばならないだろう(ルクセンブルグ王のカヴァーしたドリーミングな〈Poptones〉も秀逸だった)。

さらに底意地の悪くなったMichael Roseのヴォイス、今にも消え入りそうな紅一点Puma嬢とDuckie Simpsonのコーラスに、Sly&Robbieのダブ・サウンドが爆ぜる。Black Uhuruの《Red》(Island 1981)は怖しく入念に作られているから、初めて聴く者に衝撃を与え兼ねない。S&Rの創出した「レゲエ・ダブ・ディスコ」とでも形容すべきサウンドが従来のダブと決定的に異なるのは、ミキシングやテープ編集処理だけに頼らずに、エフェクト類を通したライヴ音を指向する点にある。つまりライヴ音源(レゲエ)を素材にして録音後にダブ化するのではなく、最初からダブ的な音像を創出しようとしているのだ。

前作《Sinsemilla》(1980)と比べて、より複雑化したダブ・サウンドは金蔵的で情動的、硬質で柔軟、クールで戦闘的、ノイジーで曖昧さがなく、しかもヘヴィーでダンサブル‥‥といった相反する要素を内包しながら凹み弾む。ちょうど水分を吸収して重く沈んだスポンジ・ボールが音の粒子を撒き散らしながら飛び跳ねるように。Smith&WestonやMagnumが火を吹く〈Youth Of Eglington〉、《We are the slave...》というリフレインが力強く響く〈Rockstone〉、Adrian Belewみたいなスライド・ギターとスライ・ドラムバー(?)のドラミングが凄い〈Carbine〉‥‥とくにシンドラムを多用した、楽曲ごとに微妙に変化する破裂音(スティーヴ・白百合も蒼白だろう)が圧倒的だ。何よりもアルバム・タイトルが、中央のピューマの笑顔と、左右の根暗そうな眼差しの対蹠的なジャケット写真が内容を象徴している。そして、それがBob Marleyの「殉教」と無縁でないことも。

                    *

1980年12月、26歳の若さで急逝した花郁悠紀子さんの著作が全作品(未発表作も含めて)を網羅するかたちで刊行されている。その中の1冊『カルキのくる日』(秋田書店 1980)を読んでみよう。表題作については月刊プリンセス掲載された時の「読書ノート」から引用しておく。《‥‥怪奇風ミステリーなのだが全体の構成が緻密で、これだけ破綻のない作品も珍しい。大島弓子さんの『バナナブレッドのプディング』と同様に図解しておく(引用者註:ナンノコッチャ?)。ただ難点を1つ言えば、前・後篇80頁というページ数に就いてであり、全体の構想上から少なくとも100頁は必要であったと思う》。以下、御丁寧にも登場キャラと「10の化身」の対応表(?)まで書いてある執拗さに驚くばかりだ!‥‥今なら躊躇わずに「200ページ」と叫びたいところだが、作者にもその意志があったらしく、コミックス版の表紙カヴァー見返しの「解説」には《構想からはみ出した部分がかなりあり、後日単行本収録の時は、相当のページ数を書き足す予定でした》と記されている。

失踪した婚約者ディアナと殺人犯(?)エドモンド・ラムフォードを追って来たステフェン・コンスタントと、呪われた城の中の異母兄妹たち──既に長兄のジュノーが他界していて、妹エロウペも‥‥(ミステリなのでプロットを暴露出来ないのが恨めしい)。小声で言うと、ヴィシュヌ神と「10の化身」(計12体の翡翠像)のそれぞれが登場人物たちと対応している点に注意するなら、救いの神カルキは一体誰なのか、黒髪緑睛のダナエなのか、それとも主人公ステフェンなのか?‥‥という謎が最後に残るだろう。もっとも花郁さんはシリアスものばかりではなく、コメディ・タッチやファンタスティックな作品も数多く描いているわけで、ユーモアのセンスは坂田靖子風だったりするのが微笑ましい。

「私の夜啼鶯(ナイチンゲール)」は、サスペンス仕立ての洒落た佳作。汽車の事故で記憶喪失に陥った主人公アレクサンダー・ルーヴィン(?)は成金男爵の息子だった。婚約者ロザモンド、いとこのジェアード、使用人の李仁(リーイン)、弁護士D・ワトスン、亡き母ヘイゼル‥‥アレクは莫大な財産をめぐる陰謀に巻き込まれる。老ルーヴィンの遺言状の行方。馬車と自動車が混在する英国という時代設定。上流階級の頽廃と異国趣味の絢爛。顔に傷1つ負っていないのだから、本人は兎も角、第三者にはアレクか別人かどうか分かりそうなものだけれど‥‥。「小妖精(エルフ)」と「小さなジョスリン」の2篇は高校時代に描かれた未発表作品。エルフとジョスリンのヒロイン2人は共に養女!──前者はモーさま風の異界ファンタジー、後者は儚い悲恋物語。絵は未熟だが、下宿生ミレユと養母の視点で描く構成が際立つ。

                    *

他のメモも幾つか披露しておこう。「白木蓮(マグノリア)抄」は繊細な小宇宙が息衝く3部作。《幼くして母を失った少女りよの成長する過程で刻まれた記憶。近くの洋館での事件を回想する。異邦から今は亡き友人を訪ねて来たドイツ人‥‥「白い風」。異母兄弟、栄と志鶴(混血)の葛藤‥‥「白い花」。元女優・橘美佐紀の娘まりえへの愛‥‥「白い火」。洋館、マグノリア、異国、戦争、死‥‥やがて、りよは幼友達の武史都結婚する。複雑な構成を駆使する花郁さんの繊細な世界が息衝く》。「窓辺には悪魔」は大島弓子風の女装趣味的(大好き?)コメディ。《イギリス(アメリカかも)の大学女子寮。エルヴェット・エリシャ・エロイーズは自殺マニア。部屋を間違えてクライゼ・クラウス・カシウスが窓から侵入。彼女(E)は彼(K)を「悪魔」だと想う。2人のそれぞれの友人、フィリッパとアルジャノン。主な登場人物は4人──つまり四角関係なのだ!》。

プリンセス・コミックス版に巻いてあった黄色い腰巻きに《1976年から1980年のわずか5年の間に、薫り高い作品の数々を発表し若くして逝った花郁悠紀子。/ その著作のあとをたどり、その世界をめぐる傑作集をここに贈る》とあった。『カルキのくる日』には「ヨーロッパ旅行不始末記」というイラスト・エッセイ(3頁)も収録されている。ジョークン(城章子)、モーサマ(萩尾望都)、サトサマ(佐藤史生)、オラブ氏(伊東愛子)、そして筆者(花郁悠紀子)5名の欧州珍道中。同書の巻末には「花郁悠紀子作品リスト」も付いている。プチコミック「木原敏江の世界」(1979年9月号)の「豪華アシスト名鑑 !?」と題されたDoziさまのエッセイ──萩尾望都さん、大島弓子さん、忠津陽子さん、佐藤史生さん、城章子さん、伊東愛子さん、島津郷子さん‥‥の中に「かいゆきこさん」という名前があった。いつから「花郁」表記になったのだろうか?

                    *

過去に書いた手書き原稿を加筆・改稿してUPするアーカイヴス・シリーズの第3弾です。今回も所定の枚数に足りなかったので2〜3枚を加筆。オリジナル・タイトル〈スポンジ・レゲエ〉を改題しました。PILの〈Poptones〉(《Second Edition》に収録)は今でも記憶の森の中で湿っぽく鳴り響いています。The King Of Luxembourg(Simon Fisher Turner)のカヴァーも機会があったら聴いてみて下さい(《"Sir"/ Royal Bastard》の2in1CDに収録)。花郁悠紀子の作品は四半世紀を経た今日でも、眩いほどに光り輝いています。実妹・波津彬子さんに、亡き花郁さんの面影を探してしまうのは止めようかな?‥‥あなたの熱心な読者でなかったことを今でも後悔しています。妖精圏ヘ旅立ったという表現の方が相応しい気もするのですが、素敵な作品を遺して逝った花郁さん、ありがとう。

                    *

  • 花郁悠紀子さんのファンページ〜花に眠れ〜に感激!‥‥姉妹のペンネームの由来も分かっちゃった。「カイ・ハツ」ですか^^

  • 「小さなジョスリン」は、虫プロが復刊した少女コミック誌「ファニー」への投稿作品。1973年7月号の「まんがカレッジ」に坂田靖子(佳作入選)と共にレヴューされています

  • ルクセンブルグ王からの流れで、Mr. Loveletter名義のアルバムを久しぶりに聴き返しました。〈Rose Petals Incense & A Kitten〉に殺られちゃったよ。Associationのカヴァーですか‥‥ミャ〜〜〜オン、ブルブルブルブルブル^^

                    *



Red

Red

  • Artist: Black Uhuru
  • Label: Island
  • Date: 2003/07/29
  • Media: Audio CD
  • Songs: Youth of Eglington / Sponji Reggae / Sistren / Journey / Utterance / Puff She Puff / Rockstone / Carbine // Sponji Reggae / Trodding


カルキのくる日

カルキのくる日

  • 著者:花郁 悠紀子
  • 出版社:秋田書店
  • 発売日:1981/09/05
  • メディア:新書判
  • 収録作品:カルキのくる日 / 私の夜啼鶯(ナイチンゲール)/ ヨーロッパ旅行不始末記 / 小妖精(エルフ)/ 小さなジョスリン // 花郁悠紀子作品リスト

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コメント 2

miyuco

こんにちは。
sknysさん、プリンセスコミックスまだ手元にあるんですね。
どの作品か忘れてしまったけれど、萩尾望都さんの追悼文が載っていて
それを読んで泣けました。たしか大島弓子さんの『葡萄夜』のエピソードに
触れた文章だったと思います。
子育てに身動きとれない時期に、軽トラに山積みにされ、
(実家の片づけ魔の女帝(母親)の策略で)業者に引き取られていった
宝物の山の中にこの本も、混ざってしまいました(涙)

「プリンセス」買ってました。お目当ては『エロイカ』のしょーさ♡
by miyuco (2006-12-01 12:18) 

sknys

miyucoさん、コメントありがとう。
プリンセス・コミックスは『カルキのくる日』『踊って死神さん』
『風に哭く』の3冊しか手許にありません。

「プリンセス」を捨てずに取っておけば良いなと思って横着しましたが、
全巻(8冊)揃えておくべきでした。
実は全作品の半数くらいしか読んでいません。

マンガ雑誌や単行本って、大人は勝手に捨てちゃいますよね。
幼稚園〜小学生(低学年)時代の少年マンガも殆ど残っていない。
全部取ってあれば、一財産だったのに‥‥。

金太郎飴みたいに無表情なエーベルバッハ少佐ですね^^
彼の先祖を主人公(パーシモンだっけ?)にした歴史物もありましたよね。
by sknys (2006-12-02 00:43) 

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