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フレンチな娘たち [m u s i c]

2000年夏、「コルシカ島生まれの15歳」という触れ込みでデビューしたフランスの上戸彩ことAlizeeちゃん──久々のフレンチ・ロリータ(美少女アイドル)の登場に世の独身男性たちも垂涎の眼差し。しかもデビュー・シングル盤が〈Moi...Lolita〉っていう超ド真ん中の直球タイトルなんだから、もう堪りません。金と真紅の豪華絢爛な椅子に坐った、純白レースのミニドレスに黒いニーソックス(+黒スニーカ)姿の少女が頬笑むスリーヴ写真からしてワクワクドキドキものだし、Mylene Farmer & Laurent Boutonnatのコンビが楽曲提供〜全面プロデュースというのも当時話題になりました。妖艶ミレーヌ嬢と聞き及び、あの暗鬱なエレクトロ・サウンドを想い浮かべて顔を顰める不粋者もいるかもしれませんが、そこは現役アイドル路線の王道を歩むAlizeeちゃん、後期New Order並の明るさ(暗さ?)で軽快に迫って来ます。所謂フレンチ少女歌手定番の「囁き系ロリータ・ヴォイス」と一線を劃すのは、彼女が「歌えるアイドル」だということ。お色気では負けるけれど、少なくとも大先輩のJane B.やMF様よりは歌唱力はありますね。

20世紀最後の月にリリースされたAlizeeちゃんの《Gourmandises》(Requiem 2000)はピンクの縁取りも可愛い、ロリーポップな外装の刺戟的なキャンディだった(君は初回デジパック盤を持っているか?)。先行シングルの豪速球〈Moi...Lolita〉、彼女のテーマ曲とも言える第2弾シングル〈L’Alize〉、J・ボンド・ガールへの憧れを歌った〈J.B.G.〉(007のテーマソングを引用)、アラビック風のオーケストレーションの濃霧の中でクールな低音ラップを披露する〈Mon Maquie〉、作詞者の精霊が乗り移ったかのような〈Parler tout bas〉、仔猫の鳴き声と一緒にコミカルな愛の呪文を唱える〈Abracadabra〉‥‥。全作詞を担当したMFも10代の搖れ動く少女の気持ちに成り代わって書いているようだし、ヴァラエティに富んだLBの曲の完成度も高い。例によって国内盤が出たのは慥か半年以上も後のことだったと記憶するが、20世紀末に突如として降臨した新ミレニアム・アイドルの存在は21世紀への架け橋として、儚い七色の虹のように映ったのだ。 

2003年春、約2年半振りに2ndアルバム《Mes Courants Electriques》を発表。それでも未だ「なんたって18歳!」なのだ。オリジナル盤は全11曲らしくて、輸入EU盤には英語詞曲の仏語ヴァージョン4曲が追加収録されている(フランス国内盤は全曲仏語なのかもしれない)。恐らく仏語圏外のマーケットを狙った所属レーベルの戦略なのだろう。万人向けのせいか、デビュー作に含まれていた刺戟度が減退しているように感じられてしまうのは惜しい。日本盤は彼女が出演しているブルボン製菓のTVCM(残念ながら1回も観たことないけれど‥‥)曲をボーナストラックに加えた独自仕様。黒いミニスカ・セーラ服のAlizeeと巨大な黒いハイヒールとの対比(デペイズマン)は少女と大人──大人の女への憧れと不安、10代(20才じゃないの!)の自由と戸惑いを暗に象徴している。元ロリータのVanessa Paradisのように早々と結婚〜出産(奥サマは魔性?)してしまうのか、それともMFと同じような道を歩むのか‥‥まだまだ先は長い。

先は短かったのだ。洋の東西を問わず、アイドル少女の命は儚い。2005年、晴天の霹靂の出来ちゃった婚→出産→引退にファン号泣!‥‥某サイトで視れるAlizeeちゃんのパ○チ○動画も、心ないファンの怒りが爆発した証しのかな。彼女自身が「アイドル人形」を演じることに嫌気が差していたのかもしれません。男(セックス)で変わる女、変わらない女。結婚(同棲婚)する女、しない女。産む女、産まない女。一部で復帰説も囁かれていますが、従来の清純派路線を踏襲という訳には行かないでしょう。Alizeeママは「歌えるアイドル」(Jane. B系のウィスパーヴォイス〜音痴女優とは異なる!)なので、アーティスティックな歌姫を目指すか、それとも露出症的なエロカワ全開?‥‥ハサミ男と結婚後も妖しい魅力を失わないVanessa Paradisや、20年振りに2ndアルバム《5:55》(Because 2006)をリリースしたCharlotte Gainsbourgが、良いお手本になるかもしれません。

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Nourith嬢のデビュー・アルバム《Kol Yishama》(Polydor 1999)は衝撃的だった。アクースティック+アラビック風味という今まで有りそうで無かったアイディア、伝統音楽と現代的なポップスの混じり具合いの比率が絶妙で、当時多くのワールド・ミュージック愛好家たちのハートを鷲掴みにした。8ビートから逸脱するリズム、アラブ系歌唱独特の巻舌コブシ回し、ニュー・エイジ〜アンビエント〜プログレ風の音像‥‥そして何よりもNourith自身のエキゾティックな容貌に惹かれたのだ(まるで森川久美や内田善美先生の描く世界から抜け出て来た耽美キャラみたいではないか!)。前半は、そうでもないけれど唯一英語で歌われる7曲目の〈Universal Hobo〉以降、彼女のミステリアスな魔力に徐々にハマって行く。Kate Bushを彷佛させずに措かない〈Aye At〉、彼女のルーツである古典音楽に挑戦した「3000年前の楽曲!」という〈Shabehi〉‥‥Eric Serraが手懸けた〈Ela〉は2コーラス目のスネアが入って来る瞬間と、間奏部の彼女のアラブ風ギミックに魅了される。

ところが3年後に発表された2nd《Nourith》(2002)でアラビック色は一掃されてしまう。まるでアイリッシュ・ケルト風味が稀薄化したClannadみたいに。全12曲中、英語詞曲1という配分は変らぬものの、アラビア語詞曲が激減!‥‥そのためデビュー作で半数以上(13曲中7曲)を占めていた彼女の自作詞が新作ではゼロ、リズム・パターンも味気ない8ビート主体(西欧ポップス化)に後退してしまった。もし、この路線変更が所謂9・11以降の世界情勢を配慮した結果だったなら実に残念なことである。アラブの一部の過激派が国際的なテロ行為を犯し、仮令イラクが「大量破壊兵器」を隠し持っていたとしても、一般アラブ人並びに彼らの「文化」までも排除→抹殺すべきだとする考え方は危険極まりない。どこかの国の「鬼畜英米」みたいな排他主義がエスカレートすると、あのディズニーがアニメ化した『アラビアン・ナイト』でさえ「焚書リスト」に載り兼ねない事態に陥らないとも言い切れない。「単独行動主義」のブッシュ政権を支持した米国内は兎も角、英米の「イラク攻撃」に最初から反対していた欧州(EU)諸国内でも「アラブ文化」は肩身の狭い、自粛傾向にあるのだろうか?‥‥Nourith嬢も次のアルバムでは初心の還って欲しい。

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生前の吉行淳之介氏はサインを求められると色紙に「樹に千匹の毛虫」と書き添えて若い女性ファンの顰蹙を買っていたらしいが、「背中に50匹のテントウ虫」はキモ可愛いかどうか、それも「裸の少女の背中に蝟集した真っ赤な50匹のテントウ虫(模造品)」だったとしたら擽ったいか、それともカ・イ・カ・ンか?‥‥このシュールなCDスリーヴを一目見ただけで《Emilie Simon》(Barclay 2003)はジャケ買いなのだ。しかも典型的なフレンチ娘のロリータ声に加えて、作詞・作曲、演奏(ギター&ピアノ)、そして自らプログラミングも手懸ける才女ぶり。これだけ揃えば悪かろうはずがない。トリッキー以降のダウンビート〜エレクトロニカ(音響派)にEmilie嬢のロリータ・ヴォイスが気持ち悪いくらいにハマっている。ヴォイスに歪み加工を施した〈Secret〉はA. Goldfrapp嬢みたいだし、英語で歌われる〈Blue Light〉はKate Bushを、Perry Blakeとデュエットした〈Graines D'Etoiles〉はThom Yorkeと共演したBjork(Selma)を想い起こさせる。Iggy Pop / The Stoogesの〈I wanna be Your Dog〉にはLou Reedの〈ワイルドサイドを歩け!〉をカヴァしたVanessa Paradisに相通じるパンキッシュな感覚も窺われる(ライヴァル意識?)。

《Emilie Simon》の限定盤に付いているプロモ用のオマケCD(4曲入りライヴ盤)は一層興味深い内容になっている。最初こそデビュー・アルバムを踏襲したエレクトロニカ風だが、次第にMTVアンプラグド化して行く。おもちゃ箱をひっくり返したような〈Dernier Lit〉、清楚なバラードから一転してパンキッシュに転回する〈I Wanna Be Your Dog〉、意表を衝くアクースティック弾き語りの〈Femme Fatale〉、ボサノヴァ〜ジャズ調の〈Flowers〉のアレンジも秀逸。3〜4曲目を聴いていて想うのは、ギターやピアノの弾き語り女性SSWたちのことである。たまたまEmilieはプログラミングも出来るので自らサウンドを構築しているが、そうでなければ例えばSuzanne VegaやTori Amosのように、サウンドは敏腕プロデューサ任せの(Rosie Brownのデビュー作みたいな傑作が産まれたりする)、あるいは歌えないけれどプログラミングの才能に恵まれればLeilaのような存在になっていたかもしれない。逆に言えばEmilieがギター1本でステージに立ったとしても何の違和感もないし、旧来のロック・バンド的編成からも自由に立ち振る舞える。すべてを兼ね備えた彼女の存在そのものが無限のパフォーマンスの可能性を決定づけているのだ。

デビュー・アルバムの「テントウムシ少女」は別人28号〜四谷シモン人形だったのでしょうか。レースの衣裳に身を包んだクラナッハ風女性の上半身と右手首が、植物的というより生首種子風に浮游する2nd《Vegetal》(2006)のスリーヴを見て、今まで騙されていたことに漸く気づく‥‥テントウムシ少女=シモンさんだとばかり思っていました。それにしても国内盤の邦題《草木の如く》とジャケ写真(リンダ・R〜濱田マリ?)は何とかならないのでしょうか。ヴァイオリンとチェロがノスタルジックな音像を醸し出す〈Alicia〉、60年代フレンチ・ポップ風の〈Fleur De Saison〉、不協和音コーラスが気味悪いワルツ〈Sweet Blossom〉、雲と天使たちと一緒に空を泳ぐ「私」が孤独を悟る〈Swimming〉、Bjorkの新作にも通じるヒップホップ的なアプローチの〈Dame De Lotus〉、人間の男を愛した薔薇の花(Roses)の恋心をコミカルに綴る〈Never Fall In Love〉‥‥。
 
アルバム・タイトルや曲名からも分かるように、植物や花のイメージに覆われているが、その華やかさとは対極的な隠花植物や食虫植物を想わせるところがある(仄暗い植物園で蔓や蔦に囚われたり、人気のない池で溺れたりする?)。Kate Bushを可憐にしたようなロリータ声、Bjorkのような半壊サウンド‥‥トリップホップ以降〜エレクトロニカ系の音数の少ない音像で統一されている。シモン庭園に咲く花たち──薔薇、百合、スミレ、ジャスミン、芥子(Opium)、蓮‥‥。Emilie Simon嬢は花が大好きなのね。デビュー作に〈Flowers〉という曲がありました。エレクトロクラッシュ・ギャルのSir Aliceのように決して激さないところが彼女の美点でしょうか。初回輸入盤はIntelの「OPENDISC」仕様。パソコンにCDを入れるとネット認証でPVやヴィデオ、Le Tigreちゃんのリミックス・ヴァージョン等が再生されるみたいですが、Macは未対応らしくて動作しません(泣)。

                    *

  • 薔薇姫ぶーけさんのリクエストに応えました。3人のフレンチ娘、6枚のアルバムを紹介しましたが、例外なくデビュー作の方が優れています^^

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Gourmandises

Gourmandises

  • Artist: Alizee
  • Label: Polydor
  • Date: 2001/05/03
  • Media: Audio CD
  • Songs: Moi ... Lolita / Lui Ou Toi / Alizé / J.B.G. / Mon Maquis / Parler Tout Bas / Veni Vedi Vici / Abracadabra / Gourmandises / Quoi Rêve une Jeune Fille


Kol Yishama

Kol Yishama

  • Artist: Nourith
  • Label: Polygram International
  • Date: 2001/04/24
  • Media: Audio CD
  • Songs: Kol Yishama / Lean Ani Eleh / Yeroushalaim Shel Zahav / Papa Joseph / Lerega Elayih / Opaline / Universal Hobo / Aye At / Saphir / Shabehi / Balayla Kar / Ela / Yeroushalaim Shel Zahav


Emilie Simon

Emilie Simon

  • Artist: Emilie Simon
  • Label: Universal International
  • Date: 2003/05/27
  • Media: Audio CD
  • Songs: Desert / Lise / Secret / Pleut / I Wanna Be Your Dog / To the Dancers in the Rain / Dernier Lit / Graines d'Etoile / Flowers / Vu d'Ici / Blue Light / Chanson de Toile

コメント(8)  トラックバック(1) 

コメント 8

mana☆

今晩和です。
初めまして、小学5年のmana☆と申します。
記事とは関係のない質問ですが、ブログの全体的の背景の設定は
どうやるのでしょうか?
何回も調べているのですが出てこなくて・・・・・orz
mayaさんみたいに背景を設定できたらなーっと思いまして・・・・・。
よかったら教えてくれませんか?
めんどくさかったり、教えたくない場合はスルーしてもらっても構いません
このコメントも消してもらっても構いません
長々と失礼いたしました
by mana☆ (2006-09-21 19:35) 

sknys

mana☆さん、初コメントありがとう。
オリジナル・スキンと同じ方法で簡単に変更出来るよ。
背景色を変えるには「無地色スキン」のようにカラーコードを指定します。

.body{background-color:#fffacd}

mayaさんのように画像を入れるには「タイル地スキン」と同じく、
オリジナル画像を用意して縦横に敷き詰めるだけ。

.body{background:url("/_images/blog/_×××/××××/0000000.gif") repeat}

1枚の大きな画像を貼り付ける方法もありますが、
サイズを合わせなくちゃいけないし、
記事の文字が見難くなったりするので余り現実的ではありません。

書式をコピーした際に不自然な半角スペースが生じる場合は消してね。
画像の拡張子(jpg. gif.)にも気をつけましょう。
上手く行かなかったら、またコメント付けに来て下さい。
by sknys (2006-09-21 21:47) 

mana☆

お返事有難うございます。
早速挑戦したいと思います。
これからもブログ更新、頑張ってくださいね
期待しています。
また、オリジナルスキンの記事はとても役に立ちました。
sknysさん有難うございました
by mana☆ (2006-09-22 18:41) 

sknys

mana☆さんも学業とblogの運営を上手く両立させて下さい。
コメント投稿者の平均年齢がグッと下がりました^^
一体どんな背景画像になるのかな?‥‥やっぱり、リヴリーですね!
by sknys (2006-09-23 13:38) 

こんにちは!
コメントありがとうございます♪
猫ちゃん可愛いですねーw
私の家にも猫ちゃんが8匹いるんですよ♪

オリジナルスキンの設定でアドバイスしてくださってありがとうございます!!
お蔭様でバナーとヘッダが繋がりましたww
ではこの辺で失礼しました!
by (2006-09-24 16:29) 

sknys

羅ティオスさん、コメントありがとう。
猫ちゃんを8匹も飼っていたら、毎日の世話が大変でしょう。
自分で撮った愛猫写真を公開するのも愉しいよ。

ヘッダ部分に画像を入れると、このオリジナル・スキンでは
縦幅が少し足りませんね。
ベーシック(黒)は770×167pxでピッタリ!
‥‥多少長くても、ハミ出した下辺は自動的にカットされます。
by sknys (2006-09-24 18:58) 

ぶーけ

コメントおそくなってごめんなさい!リクエストに答えてくださってありがとう。
sknysさん、やっぱり詳しい♪アリゼ以外の2人はまったくしりませんでした。
Kol Yishamaのアラビア風は聞いてみたい!Emile Simonはちょっとひきました。(笑)薔薇姫、なんてお恥ずかしい。。薔薇好き姫とか、あ、そもそも姫じゃないか。^^;
スキンもまた今度がんばってみますね。(PCについては何も知らないの。。)
by ぶーけ (2006-09-27 15:19) 

sknys

ぶーけさん、コメントありがとう。
Alizeeママはイメージ検索(Google)すると○○○画像とか、
際どい写真がポロポロ出て来ますね^^;
ミレーヌ姫の「愛弟子」だけのことはある?

Nourith嬢はKate Bushを清純にしてアラビック色に薄く染めた感じ。
騙されたと思って、デビュー作を1度聴いてみて下さい
(iTMSフランスやAmazon.frで試聴可能)‥‥きっと気に入りますよ。

Simonさんはドキュメント映画『皇帝ペンギン』の音楽を担当
‥‥ヴォーカル入りのサントラ盤も出ています。
BjorkやGoldfrappの好きな人なら絶対にハマる世界なんですが。
by sknys (2006-09-28 03:00) 

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